第34話 マラソン

入場許可を貰った俺は、翌日早速ダンジョンへと向かう。

入り口は5か所あり、俺はゼッツさんの邸宅から一番近いゲート――ダンジョンに繋がる相互転移が出来る特殊な陣――からその内部へと侵入する。


転移した場所は綺麗に整備された明るい円形の空間で、結界が張られていて魔物が入って来ない様になっていた。

まあロビーみたいなものだ。


「ここから先がダンジョンか……」


ロビーからダンジョンへは3つ程入り口がある。

俺はそのうち一つを覗き込む。

ダンジョンはごつごつした岩肌がむき出しの、少々薄暗い感じとなっていた。


――ダンジョンには2タイプある。


一つは、自然と生まれた洞窟タイプ。

そしてもう一つが、古代にあったと言われる魔法文明によって残されたとされ人工物のタイプだ。


前者は自然の物なので光源がなく、中は真っ暗な事が多い。

だが人口の物は人が行き来をする事を前提に作られている様で、ダンジョン自体が所々発光しており視界が確保できる様になっていた。


当然この王都のダンジョンは後者だ。

そのため光源はロビーからの差し込んでいる物だけにみかかわらず、奥の方も問題なく見渡す事が出来た。


え?

何で人が通る前提のダンジョンに、魔物が出るのかだって?


古代文明が残した物なので、明確な理由は俺も知らない。

一応、兵士なんかの訓練用に作られたんじゃないかってのが通説らしいが、明確な文献が残ってる訳じゃないのでそれが正しいかは神のみぞ知るって奴だ。


「どーん!」


「うわっ!?急に押すなよ!!」


急に背後から突き飛ばされ、俺はダンジョンに転がり込む様に入場する羽目に。

犯人は――


「だってアドル、覗くだけで全然入ろうとしないから」


――ソアラだ。


ある程度腕に自信があるとは言え、ダンジョン初心者なので当然一人で挑戦したりはしない。

個人的には、最初はイモ兄妹のパーティーにでも混ぜて貰おうと思っていたのだが……


ま、見事にソアラに引っ掴まってしまったという訳だ。


「初めてなんだから、少しくらい慎重に行動させろよ」


「アドルなら大丈夫だよ!」


ソアラが太鼓判を押して来る。

大丈夫か大丈夫でないかと言えば、まあ確かに大丈夫だろう。

そこそこ腕には自信があるし、流石にダンジョン入り口で躓くとは俺も思っていない。


だがこれから魔物と戦うのだから、心構え位はしたいのだ。

勝てる勝てないではなく、戦いで命のやり取りになる訳だからな。


「じゃ、いくよー!」


そんなナイーブな俺の気持ちなど知った事かと言わんばかりに、ソアラが俺を置いて駆けだす。


「おい!なんで走るんだ!?」


「強い魔物の居る所に行くから!急いでいこう!!」


俺の問いに答えながらも、ソアラは足を一切止め様としない。

このままでは放って行かれてしまうだろう。

まあそれはそれで別にいい気もするが、付いて行かないとへそを曲げられるのは目に見えていた。


「しゃあねぇな」


仕方なく俺もそれを追って走りだす。


「くそ、スピード出しすぎだろ!てか、魔物出ても走りながら瞬殺だから速度も落ちやがらねぇ」


ソアラの方が早いので、全然追いつけない。

しかも魔物が出ても横切る一瞬で始末する為、足止めにもならずに彼女ガンガンは進んで行ってしまう。


因みに、出て来る魔物は熊サイズの糞でっかい白ウサギだ。

名前はキラーラビット。

このダンジョンにおける最下級の魔物ではあるが、それでも上級クラスに上がる前だと、数人がかりでも手強いレベルの強さだったりはする。


そんな相手を鎧袖一触で始末できるのは、ソアラの強さが桁違いである証拠だ。


「このままじゃ追いつけねーな、くそ……」


仕方なく、彼女に追いつくためだけに俺はブレイブオーラを使用する。


「まさか戦闘じゃなく、追いかけっこにこれを使う羽目になるとは……」


再使用時間は瞬間強化系としてはかなり短いので、切り札として大事に取っておくほどではないとはいえ、だ。

走って追いつくためだけに使わされるとは夢にも思わなかった。


ソアラに追いついた所で俺は声をかける。


「少し速度落とせよ!」


「なんで?」


「ステータス差が大きいから、本気で走られたら追いつけないんだよ。後、こんな速度で走って魔物に遭遇したらどうすんだ?」


「この辺りの魔物は弱いから平気だよ!速度は……アドル頑張って!」


頑張ってじゃねぇよ。


魔物が弱いからって理由は、まあ百歩譲ろう。

どうせ始末するのはソアラだし。

が、速度の方はダメだ。

ソアラに置いて行かれないために全力疾走なんて続けたら、絶対直ぐにばてる。


俺は魔物を狩ってレベルを上げに来たのであって、マラソンしに来たんじゃねーぞ?


「いや、頼むから速度落とせよ」


「ぇー」


「えー、じゃねぇよ。魔物狩ってレベル上げに来たのに、走り疲れて戦えなかったら意味ねーだろーが」


「もう、しょーがないなー」


ソアラが渋々走る速度を落とした。

まるで俺が我儘を言ったかの様な口ぶりだが、そこはスルーしておく。


「後、魔物が出たら足止めて俺に戦わせてくれ。ソアラが倒してばっかじゃ、俺に経験値が入らないからな」


この世界だと、パーティーを組んで狩りをすればメンバー全員に経験値が入る仕様になっていた。


但しその分配は、貢献度によって変動する物となっている。

なのでソアラが一瞬で敵を始末しまうと、何もしてない俺の貢献度は0。

そうなると当然、俺には経験値が一切入って来ないのだ。


「弱い魔物はあんまり経験値くれないから、気にしなくていいよ。アドルは強いの狩ってレベル上げすればいいんだし」


こいつは、チリも積もればって言葉を知らんのか?


「さあ、早く強い魔物の出る所へ行こう!」


ソアラの走る速度が少し上がる。

もう少しスピードを出しても問題ないと判断した様だ。


……即座に俺の余裕を見抜くとか、本当に恐ろしい奴である。

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