スキル「無敵の人」を手に入れたが、強くなるには社会的に死ねだと!!

@NEET0Tk

プロローグ

「い、いや!!来ないで!!」

「グッへっへ、お嬢ちゃん随分と可愛い見た目してるな」


 涙を流しながら逃げようとする女。


 だが腰が抜けたのか、思うように動けず男との距離が縮まる。


「たまんねぇな〜。その恐怖に満ちた顔が今からどう変わっちまうのかを想像すると

「ご、ごめんなさ。ゆ、許して下さい!!」

「おいおい、あんたは別に何も悪いことしてねぇだろ。悪事を働いてるのは俺の方だぜ」


 男は世紀末かのようにナイフをペロペロと舐める。


 その頭の悪そうな行動に女は酷く怯えた。


 でも何でペロペロするのかだけは分からなかった。


「ああ、もう我慢ならねぇ!!悪いがもう行っちまうけどいいよな!!」

「ひぃ!!」


 男は一気に距離を詰める。


 女は一瞬、『あれ?よく見ると結構イケメンかも?』と考えるが、それでもやはり犯罪者。


 好奇心よりも恐怖心が勝つ。


 そして今にも襲われそうになる直前


「だ、誰か、誰か助けてぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」


 空がピカッと光る。


 そして


「大丈夫ですか?」

「あ、あなたは!!」


 銀色の風が吹く。


 今にも女に触れようとした男を一瞬で撃退した姿、同性ですら見惚れる程の美貌に女は目を奪われた。


「た、助けて下さいありがとうございます!!シズク様!!」


 シズクと呼ばれた少女は少し照れ臭そうな顔をする。


「様は付けなくて結構ですよ。それよりも、速く避難した方がいい」


 周囲には同じように逃げ惑う人々。


 皆が恐れる存在は、今もなお被害を広げている。


「は、はい!!ご心配をお掛けしてすみません!!」


 ぺこぺこと謝る女。


 すると下げた目線に、とあるものが映り込む。


「あの……」


 女は視線を下に向ける。


「その人……生きてるんですか?」

「ああ、これは大丈夫」


 まるで絨毯のように地面の下敷きとなった男……の上に銀白色の髪を持つ少女。


 死んだのでは?と誰もが疑う状況の中


「……そろそろ退いて欲しいかも」

「そう」


 まるで何もなかったかのように立ち上がる男。


 常人なら死んでもおかしくない銀の少女の攻撃を受け、無傷という光景に女は生唾を飲む。


「あ、あの」

「安心して下さい。この男は一応…………味方ですので」

「間が長いんだよ!!」

「ならどうして、必要以上にこの人を脅したの?」

「…………だって……必要なことだし?」

「……」

「……すみません!!途中から楽しんじゃってました!!」

「結構。後でスズに言っておくから」

「待!!ス、スズにだけは!!」

「なら、さっさと動いて」

「はい〜」


 そして男は姿を消した。


 そして女の目には


「……嘘」


 まるで災害かのように暴れていたあれを、一瞬で打ち倒す男の姿。


「彼は一体……」

「あれは私達【聖典】の切り札、マサト。またの名を」


『恥晒しのクズ男』


「私達はそう呼んでいます」

「……」

「……」

「あの……彼は……味方何ですか?」


 少女は静かに微笑み


「………………はい」




 ◇◆◇◆




「何か猛烈に失礼は波動を感じた」

「ク……ソ……」


 妙な不満を感じつつ、俺はさっきのお返しとばかりに男の背中に腰を下ろす。


 どうせなら女の子の上に乗りたかったな。


 敵を倒したことを連絡しようとすると、座り心地の悪い椅子が話しかけてきた。


「な……何故……だ。貴様の力……それは我らと同じ……いつか……滅びるぞ……」


 思ったよりも真面目な話が飛んできたので、俺も仕方なくシリアス顔で答えてやる。


「……そうかもな。でも、俺としてはどうでもいいんだ。どうせ俺に失う物は一つしかない。その一つさえ守れれば、他はもうどうでもいいんだ」


 俺は画面に映る笑顔の女の子を見る。


「どだ、可愛いだろ?」

「……」

「俺の全てだ。この子ためなら世界だって相手に出来るぜ?」

「……イカれてるな」


 そう、これは世界を救う英雄譚なんて洒落た話じゃない。


 これは


「今から帰るよ、スズ」


 全てを失った男による、ただの恥多き人生の記録である。

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