幼少期・3

 いつの時代も、授業というのは退屈だ。


 この時代には“テスト”という制度が廃止されていた。それはそう、脳内に埋め込まれたコンピューターを使えば、カンニングし放題なわけで。そもそも、やる意味がない。


 個人の学力も“スキルシステム”で、生まれた時からある程度は判別できる。もはや、授業すら意味ないのでは?とも思うが、コンピューターに頼りきりになるのもよろしくないらしく、ある程度の基礎知識は学んでいかなきゃならないようで。


 直近の知らない歴史を学ぶようなものは面白いが、テストもないのに、いまさら小学生の授業を真面目に聞くモチベーションを保つのは大変だ。



 そんなことを考えながら、帰りに校門をくぐろうとすると待ち伏せしていたのか、スッとあの大男が目前に立ち塞がった。ついでに、取り巻きーズの二人もセットで。



「植村ァ!ちょっと、待てよ!!」



「山田……くん」



 ポキポキと指を鳴らしながら、鼻息を荒くしている山田。見るからに、やる気満々の様子。



「昼間は、よくもやってくれたな。覚悟はできてんだろーな!?」



 足を引っかけたことを、ずっと根に持っていたらしい。今度は、しっかりと先生の目が届かないところで襲ってくるとは、少しは考えてるらしい。



「えっと……できれば、話し合いで解決しない?な〜んて」


「うるせー!しね、コラ!!」



 あっさりと、交渉決裂。小学生のくせに、血の気が多すぎる。とはいえ、俺も他人と喧嘩するなんて前世でも経験してこなかったことだ。多少の緊張感が、走る。



 ぶんっ



 相手の初撃を、冷静に見極めて躱わす。小学生の大振りなモーションなど、今の身体能力があれば避けることは造作もないことだと分かっていた。


 ドスッ



 そして、返しの一撃を相手の腹に見舞う。初喧嘩で顔を殴るのは、さすがに躊躇した。



「う……ぐぇ」



 カウンターで放った脇腹への一撃で、悶絶するようにその場にへたり込む山田。一発で決まってくれたようで、よかった。



「やめといた方が、いいよ。ボクシング習ってるんだよね、俺……って、もう遅いか」


「ボクシング……?くそっ!げほ、げほっ!!」



 もちろん、ボクシングなんて習ったことはない。漫画や動画で、知識ぐらいはあるけど。

 小学生相手なら、これぐらいの嘘でもバレないだろうし、このハッタリでビビってくれれば、今後は余計なちょっかいは出してこなくなるだろう。



「それじゃ、お大事に」



 内心、心臓バクバクになりながら、その場を後にする。彼の具合も気になったが、取り巻きがいたしアフターケアは何とかしてくれるだろう。



「……おい」



「うわ!なに!?」



 不意に背後から名前を呼ばれ、もう山田が息を吹き返したのかと驚いて振り向くと……そこに立っていたのは、名も知らぬ取り巻きAだった。



「お前、もしかして……転生者か?」



「!?」



 急にモブだと思っていた男から事実を見抜かれ、動揺を隠せない。これは、どう答えるべきなのか。



「そのリアクション……ビンゴらしいな。安心しろ、俺もお前と同じ、転生者だ」



「えっ!?」



「ちょっと、あそこの公園で話さないか?同じ境遇同士、色々と情報交換がしたい」



 少し先に見えた公園を指差しながら、メガネを掛けたひょろ長の面持ちの取り巻きAが言う。冷静沈着な雰囲気を醸し出しながら、指定した場所はちゃんと小学生チックなのは笑っていいところなのだろうか。


 返事をする間もなく、スタスタと目的の場所へと歩いていく彼。ここで逃げても、明日にはまた学校で会うことになる。とりあえず、警戒しながら俺も後をついていくことにした。

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