第10話 

 私立東川高等学校は口の形をしている。

 学年ごとに階が上がる四階建の四角形。一辺に4教室づつあり、一学年16クラス。その四角形に囲まれる形で中庭がある。中庭の中心には木が一本だけあり、それを鑑賞するようにベンチが幾つか設置されている。校舎の前にはグランドがあり、正面からの校舎は本来よりも誇張されて見える。新しく、清潔で、活気もある。

 その裏、旧校舎。3階建てで、家庭科室や理科室などの特別教室を最上階に置き、1階、2階は空き教室あるいは、物置として利用されている。その1階の物置の隅に映像部はある。広く利用されている校舎ではないため、少し埃っぽい。

 その廊下で今回の撮影をする。

 シーンの主演はおれだ。

 荷物を運ぶカットと一人称で手記を見つけるカット、それを拾うカット。これら3カットの撮影が今日の活動のメインとなる。

 「じゃあ、お願いします!!!」

 クルミがカメラを構える。まずは荷物を運ぶ寺島。

 おれは段ボールを持ったまま一定の速度、歩幅で歩く。

 もう少しか。

 「かーーーーっと!!」

 「おっけいです!!」

 「じゃあ、次のカットだね」

 由衣はコンテを見ながら、段ボールにスマートフォン斜めに立てかける。

 それから、数メートル先に手帳を床に置く。

 そして親指を立てる。

 「じゃあいきますよ!!」

 「おう」

 まあ、歩くだけだからな。先ほど通り一定を意識する。カメラに手帳が写るように。

 それから、拾うカットも取り、今日の撮影を終えた。

 



 部室に戻り、映像を確認する。

 「あまり面白みないですね」

 「確かに」

 「ほんとだ」

 まあ、男が手帳拾うだけだからな。

 にしても、それだけのシーンなのに意外と恥ずかしい。

 「1シーンだけだからね」

 「う~ん。しかし」

 「そうですね。これは入りなのでこのくらいがちょうどいいと思うのですが...」

 「これからの展開をどうしようか」

 「手法を変えるとか?」

 「たとえば?」

 「ボブ先輩のグラビアを挟んでサブリミナル的な」

 「いいかもしれない」

 「ちょっと」

 由衣がおれを睨む。クルミが最初だろ。

 「いや、そうじゃない。ヒロインを最も目立つような段取りにするんだ」

 つまりは、いかに由衣を目立たせるか。

 「例えばどうするんです?」

 「わからん」

 沈黙が流れる。

 「……ねえ、」

 由衣が沈黙を破る。

 「ドキュメンタリー風にするのはどうかな」

 ドキュメンタリー風?

 「つまり、観客が観ているの映像は樋口の目を通してる設定にして最後に最初に撮ったシーンが出てくる」

 「いいですね!! インパクトがあります!!」

 「うん。いいかもしれない」

 技術も経験も足りないのだ。であれば、インパクトだけでも与えたい。

 「それじゃあ、明日までに絵コンテを描いてくるよ」

 「明日からテスト期間だから部活禁止だよ」

 忘れていた。

 期末テストのあとは夏休み。今作は夏の学校が舞台だ。秋でも冬でもいけない。 

 「あれ、もしかして詰んだ?」

 「詰んだね」

 「詰みましたね!!」

 さて、なぜこうなった?意味のないことだが責任者を問おう。スケジュール管理の担当者を。おれだ。

 まあ、いっか。元々思い出作りだったのだ。

 「えーと、なんか食いにいかない? 勿論おれのおごりで」

 「いきます!!」

 「ごちそうになります」

 


 我々は正門に向かいながら話していた。

 「次郎系とかどうだ」

 ニンニクましましで。

 「電波先輩はモテない人ですよね」

 「うん。これはモテないね」

 「い……いやあ」

 正解だちくしょう。てかなんでわかるんだ?女の勘ってやつか。神秘だな。

 「近くのファミレスとかどうです?」

 「うん。いいかも」

 「おう」

 今回はお詫び兼お疲れ会だ。彼女達の意見が最優先だ。

 



 「「ごちそうになります!!」」

 クルミはハンバーグステーキ、由衣はチョコパフェを前に手を合わせる。

 「おお、食え食え」

 おれはエスカルゴを突く。

 「飲み物とりに行くけど、何がいい」

 「私はコーラで!!」

 クルミはハンバーグを頬に詰めている。椅子の高さも微妙にあってないし、小学生にしか見えない。

 「私もいくよ」

 由衣はコップを持って立ち上がる。ついでにクルミの頭を撫でていた。クルミもまんざらではない様子だ。

 「心配しなくてもなめたりしないよ」

 「そんな心配してないよ」

 「映画の件すまなかったな」

 「別に電波君のせいじゃないよ。それにまだ諦めてないんでしょ?」

 「まあな。さあ、早くしないとクルミが喉を詰まらせちまう」

 「そうだね」

 席に着くと、そこには青い顔をしたクルミがいた。本当に喉に詰まらせていた。

 「くるみちゃん!」

 「おい!早く飲め!!」

 クルミはおれの手からコーラをひったくって一気に飲み干す。

 「ふ~」

 クルミの顔に生気が戻っていく。

 「けっぷ!」

 可愛らしいゲップをし、顔を赤くさせる。

 本当に忙しいやつだ。

 



 「がっつきすぎたな」

 「もう!恥ずかしかったんですよ」

 「でもかわいかったよ」

 「もう、ボブ先輩まで」

 「はは」

 「笑わないくださいよ!モテないですよ」

 「おいおい。それは関係ないだろ」

 「関係ありありですよ!!!!デリカシーです!!」

 「電波君は偏ってるからね~」

 「偏ってるとはなんだ」

 「脳みそに筋肉が詰まってるんですよ!!」

 「なんで嬉しそうなの」

 「ぷはは」

 「そういえば、歩き電車通とかじゃないよな?」

 「これはモテますね」

 「モテるね」

 「実際モテるからな」

 「ご冗談」

 「無敵のボブヘアーほどではないでございやすが」

 「それはやめて~」

 「ボブ先輩はモテますよね!!」

 「一週まわってモテてないぞ」

 「マッチポンプ!!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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