第2話 

 今年の夏、私立東川高校映像部は映画を撮ることになった。

 映像部が映像を撮る。それは、サッカー部がサッカーをするのとどうように至極あたりめのことであり、とりわけ特記すべきことではない。しかし、我々のように映像制作を目的とせず入部した者にとっては特記事項になり得るのだ。

 そもそも、映像部は映像の部であって映画制作の部ではない。

 映像部の歴史について語ろう。

 映像部は成績優秀、質実剛健、多少助平な先輩方が設立し、昼、放課後かまわず映像鑑賞に勤しんだ勤勉な部活。その歴史は長く、学校設立当初から始まっていたと言われている。そのため、所蔵品の数も希少度も並のものではなかった。しかし―――それ故に、所蔵品が時代の波に呑まれる事になる。検閲が入ったのだ。検閲の結果、映像部に保管されていた貴重図書及び、優良図書は枕詞に猥褻の烙印を押され押収されてしまった。残されたのは生気を失った部員と空っぽの部室だけだった。その後、部員は自然消滅(おれが入学した時には既に部員はいなかった)、部室は形骸と化していた。

 こうして歴史ある映像部に幕が下りた。

 しかし、廃墟には人が集まるものである。

 例えば、おれこと―――村方天馬、田中由衣。2年遅れて山羊クルミ。

 だが、人がいるからといって本来の映像部が復活したわけではない。映像部は映像に触れるからこそ映像部なのだ。我々は病魔のごとく、映像部の名前を使い、予算を貰い、映像とは無関係の活動を行ってきた。部室にはパワーラックに各種の筋トレ器具、学校には不釣り合いのふかふかソファーと入手の難し古本、お菓子とジュース。

おおよそ、映像部とは言えるものではなかった。唯一映像部OBが残してくれた(検閲に引っかからなかったもの)本来の映像部らしいものは初期の少年ジャンプぐらいだ。

 本題に戻ろう。

 なぜ、我々が映画を撮ることになったのか。

 本来通り、像像収集と映像鑑賞ではいけなかったのか。

 前記した通り、我々は学校から予算を貰い、映像とは関係のないものを買っていた。予算を貰うに当たって、生徒会への活動報告書の提出が必要になってくる。その際に、“映像鑑賞”では映像あるいはそれに通ずる物しか購入することが出来ない。しかし、“映画作成”とすることで映画の小道具、背景として様々な物の購入が可能になったのだ。クルミが報告書にポテチとコーラと書いて提出したときはさすがに廃部を覚悟した。それでも通ってしまうとは生徒会……。ここで問題が起こる。我々映像部が文化祭で制作した映画を発表しなければならなくなったのだ。生徒会からは「ぜひとも3年間の集大成が観たい」だそうだ。卒業制作。勿論、映画など作ったことなどない。しかし、活動報告書には"映画制作”と明記されてるではないか。このままでは映像部が廃部になってしまう。今までは部の名前だけが存在するだけだったため、学校側が予算を与える必要も無く、互いに不可侵の関係を続けてきた。しかし、今では部員がおり、学校側に予算を請求し、割といい額を受けてきたではないか。であれば、学校側は予算分の成果を求める。払えないなら、借金。つまりは廃部になるのだ。曲がりなりとも歴史ある部活だ。我々の代で潰してしまうのではいささか心苦しい。

 と、いいろいろとそれらしいことを述べたのだが、人数の関係で映像部が元の廃部に近い状態になるのはほとんど確定している。新入部員が集まるとも思えないし、既存の1年生は来年度は退部する予定らしい。

 ではなぜ、映画を撮るのか。その本音。

 元々機能していなかった部なのだ。それの歴史や継承に対する責任は感じないし、興味もない。(しかし、長い歴史の最後に立ち会えるのは光栄なことのように思える。いささかマッチポンプ感は否めないが、歴史ある映像部の最後の部員の一人であることを光栄に思うだろう。)

 つまりは、ただの思い出づくりだ。




 こうして、我々映像部は映画を撮ることになったのだ。

 期限は文化祭のある10月。

 第一回映画制作会議の結果。

 我々は私立東川高校の噂(七不思議?)の一つを題材とする映画を撮る。

 おれは監督兼、雑用。

 由衣はシナリオ作成。

 クルミは映像全般。

 勿論、部員が3名しかいないため、全員が出演者。

 結局、今会議で決まったのは撮影方針とラストシーンのみ。

 素人が手探るで作るのだ。生徒会のいう「3年間の集大成」にはほど遠い稚拙なものになるだろう。だからといって、手を抜くつもりはない。できる限り全力でやるつもりだ。

 

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