第2話 ゲームオーバー

 最近夢を見る。

 日本ではないどこか。

 辺りは血まみれで、自分も血だらけになり何者かと戦っていた。

 いや、自分といったがそう感じただけで全くの別人だ。

 周囲には無数の死体と捕らえられた仲間達。

 そして、その捕らえられた仲間達の先頭には2人の女性がいた。

「アルフレッド様!頑張ってください!」

「アル!負けないでね!」

 ふたりの女性に応援される。

「さぁ、どうした?家族を守るために家族を殺してみろ!お前は家族を守るために戦うんだろう?速くしないとお前の家族が傷つけられて行くぞ。お前の覚悟を示して見せろ!」

 戦っている相手は良く見えないが挑発をしていた。

 とらえられている二人は、美人と言えるほどの見た目である。

 が、捕らえられ、ボロボロである。

 すると戦っている相手は戦闘の隙を見て仲間を捕らえている兵に指示を出す。

 すると仲間をとらえていた兵は1人の女の手を見える位置まで持ち上げ指を反対方向へと曲げる。

「ぐっ!」

「セラ!貴様ぁ!」

 その行為を見て俺は激昂する。

 いつもそこで夢が終わる。

 そんな夢を最近よくみる。

 しかし、朝を迎えると夢を見た記憶は失われている。 

 一体何だというのだろうか。


 人生はゲームである。

 そんな言葉を聞いた事がある人も居るだろう。

 その言葉は人生とはゲームのようなものだ。

 という意味なのだがこの人物は違った。

「くそ!」

 彼の人生は、ゲームなのである。

 ゲームしかないのである。

 パソコンの画面には Game Over の文字が出ている。

 部屋にこもりきりになって1週間。

 ゲームのコントローラーを投げ捨てる引きこもりの高校生がそこにはいた。

 この引きこもり、山中盛幸やまなかもりゆきはこれまでの人生良いことが何もなかった。

 姉が優秀だったこともあり、姉と比べられ、家族全員から馬鹿にされ、バイト先でも失敗続き。

 もう何もかもが嫌になり、部屋に引きこもりゲームに没頭している。

 ゲームの中では何もかも思い通りになる。

 なりたい自分になれる。

 中学生の頃にゲームというものに出会い、それからというもの様々なジャンルに手を出し楽しんでいる。

 格闘ゲーム、戦略シミュレーションゲーム、恋愛シミュレーションゲーム、アクションゲーム、ロールプレイングゲーム、etc……。

 しかし、簡単すぎては現実味がなく、面白くない。

 そこで盛幸は難易度を全てベリーハードでプレイしている。

 これならば、何をやっても失敗する自分が、努力によって成功出来たという気持ちになれるからだ。

 そしてゲームに没頭してから数年が経ち気づいたら社会人にまでなっていた。

 しかし、いま目の前のゲームはなんとかなりそうにない。

「無理ゲー過ぎんだろ!」

 声をあげ、怒りをあらわにする。

 しかしその顔には笑みがこぼれていた。

 そう、なんだかんだ言ってただ楽しんでいるのだ。

「腹減ったな……。」

 部屋を出てリビングにある冷蔵庫へと向かう。

 もう深夜で家族は全員寝ている。

 冷蔵庫を開けると中には食べられそうなものは入っていなかった。

 勿論家族が食べる分はあるのだが、盛幸は完全に個別で食べているので流石に家族の分は手が出せない。

「買いに行くか……。」

 家を出る。

 家のすぐ前にはコンビニがあり、何時でも買いに行くことができる。

「やめてください!」

 叫び声が聞こえ、そちらの方へと目をやると路地裏で柄の悪そうな男性達に女性が絡まれている。

「うるせぇな!騒ぐんじゃねぇ!」

 男達は女性に頬を殴った。

 深夜とあうこともあり、回りに人はおらずやりたい放題だ。

 盛幸は取り敢えず警察へと電話をいれた。

「警察をよびますよ!」

「俺達の目の前でケータイ取り出して電話をかけるのか?出来るわけないだろ!」

 男達が笑い飛ばす。

「……おい、警察へは通報したぞ。」

 男達の元へと行く。

「誰だ?お前?」

「通りがかりの一般人。」

 相手は3人まとまって襲いかかってこられたら流石にどうしようもない。

 出来るだけ会話で引き延ばし、警察が来るのを待つしかない。

 そして男達の後ろへと目をやり、女性に早くにげろと催促する。

 女性はそれが分かったのか、走り去っていった。

「あ、くそ!」

「手前ぇ、調子のってんじゃねぇぞ!」

 男の一人がなぐりかかってくる。

 しかしその勢いを利用して相手を投げ飛ばす。

 このような動きはゲームの真似事だが、案外行ける。

「ちっ!」

 残った男2人がナイフを取り出す。

 一応ナイフ相手の行動も頭には入っているが、正直不安ではある。

「死ねや!」

 一人が突っ込んでくる。

 しかしナイフを持っていた手に対し羽織っていた上着を投げ掛ける。

 丁度良く相手が振りかぶっていた手に巻き付き、勢いが止まる。

 その隙を見逃さず、相手の腹部に蹴りをいれる。

 よく元陸上自衛隊の叔父に訓練されたのが役に立った。

「どうした?そんなものか?」

 少し挑発する。

 もう一人も先程と同様に来てくれれば警察を待つまでもなく、なんとかなりそうである。

 しかし、彼は油断していた。

 これまで何事もうまくいかなかった原因は実ははっきりしている。

 本人の能力は決して低いわけではない。

 凡人と比べれば優秀な人間に部類されるだろう。

 しかしツメが甘いのだ。

 本人もその欠点には気づいてはいるのだが、いつも同じようなミスをする。

 彼は先に倒したと思っていた、投げ飛ばした男に後ろから押さえられる。

「今度こそ……。」

(あ、これはまずい。)

「死ねやぁ!」

 腹にナイフが突き刺さる。

 熱い。

 痛い。

 そしてうつ伏せに倒れこむと、相手は背中にも刺してきた。

 何度も何度も刺してくる。

 こちらは全く動けないというのにだ。

 遠くからサイレンの音が聞こえる。

「やべぇ!サツだ!」

 男達はそそくさと逃げだした。

「そんな!大丈夫ですか!?」

 先程助けた女性が駆け寄ってくる。

 恐らく警察をここまで誘導してくれたのだろう。

 しかし、もうすでに答えられるほどの力は残っていなかった。

『仕方無いですね。』

 薄れ行く意識の中、聞いたこともない声が聞こえた気がしたが、俺の頭の中はやり残したゲームのことで頭がいっぱいであった。

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