学徒防衛戦②

 達人。それは術理の頂点に立つ存在。構えから察するに相良の使う中国拳法によく似ている。いや、間違いなくそうだろう。

 相違点があるとするならば練度。その足運び、体捌きに一切の無駄がない。おそらく体術においてリーさんに並ぶ程の────と鏑木が思考を巡らせるも無く、凛風は距離を詰めた。


寸打発勁すんだはっけい


 身体を薄く纏っていた結界が砕ける。念のため重ねていた防御膜が打突によって一発で貫かれた。

 腹部を襲う衝撃。後方へ数m吹き飛ばされ、内蔵が直接殴られたような感覚と共に血反吐を吐き出し鏑木は宙へと舞った。


「うぐッ……反則的な強さだねぇ……」

「それがオマエの能力カ? ワタシの攻撃喰らっても立ってるなんて、両親に感謝するとイイ」

「ああ、間違い無い。中年とはいえ、生きるぐらいの親孝行はしなくっちゃね」


 凛風はまた冷たい瞳でふふと口元を隠して笑う。その様子に鏑木は面食らうも「冗談のつもりはないよ」と中指と人差し指を立てて能力を発動させた。


「『境界律ゲンゼン・サンガ』」


 鏑木の頭上に棍棒・刀・槍状の結界が次々と形成されていく。と同時に目の前の敵へと指を差し、それを放った。

 真っ直ぐ、曲線、不規則な動き。様々な角度で凛風を無数の攻撃が襲う。が、凛風はいとも容易く飛んでくる結界を徒手空拳で捌き、破壊する。


「この程度の攻撃、ワタシに通じ…………」


 瞬間、凛風の両手に痛みが走る。小さな刺し傷や切り傷はおびただしく、小さな傷口から血液が滲み、指先からポタポタと垂れた。


「ふぅ、良かった。ちゃんと効いてくれた」

「なるほど、筋が良い。搦め手も出来るのカ」

「おじさんはひ弱だからね。細工は流々、策を練らないとお嬢さんみたいな"本物"には勝てないの」


 鏑木が飛ばした結界は一見すると滑らかな棒。しかしその実態は小さな針。接触面だけを、瞬間的に、鋭利な刃状へと変化させていた。


 槍や刀自体に変化させた結界の場合、この次元レベルの使い手は接触面の防御を瞬間的に上げて対応する。

 だから、それはダミー。面積は小さい代わりに確実にダメージを与える攻撃、それがこの棍棒だ。


「繊細な能力操作、正確無比とも言える実力の分析。認めよう鏑木、オマエは強イ」

「そりゃどうも。お褒めついでに退いてくれれば嬉しいんだけど」

「冗談はヨセ、標的を前にして逃げたとあればそれこそ恥ダ。人は恥を嫌うものダロ?」


 「間違いないね」と鏑木は苦笑しながら肩をすくめる。凛風はその反応を良しとし、構えを解いた。

 だらんと両腕を下ろし真っ直ぐに立つ女。臨戦体勢を解いた? いや違う、これは─────。


「『手品師の十八番ザ・シークレットサービス』」

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