新たな覚醒③

 分子構造・遺伝子情報の全て網羅し、構成。創り出した器と本体の魂を繋げ、移行。

 奥村の能力フェロモンに対し、呼吸器官等にカルトによる防御フィルターをかけて回避。以降十八時間、三十二回におよぶ自己転生を実行。


「こんなに満たされたの生まれて初めてです。やはり貴方様は………運命の人♡」

「はぁはぁ……いい加減に……しろ……」


 偶像系能力は消費が激しい代償として、他変異者とは一線を画す基礎能力を持っている。そして奥村は他者から生命力を奪うことで、驚異的な継続能力を発揮していた。


「いいえ、いい加減にするのは貴方の方です。早く私のものに……ダメになりましょ? ね、ね、ダメになっちゃえ♡」

「…………ふーー」


 肉体の支配権を取り返し、死から何度復活を遂げても尚、奥村は隙を見せない。

 俺の変異力はもう底を尽きかけている。実力もあちらが上。ならば急所を狙うしか無い。と師人は腹を決めた。


「いいぜ、分かった。とことんやってやる」

「!!、それは私を受け入れてくださる、ということでしょうか……!?」

「俺の従者おんななら、言わなくても分かるだろ?」

「〜〜〜〜〜ッ」


 針に糸を通すように"一発"で決める。俺の返答に興奮を抑えきれず、より激しく乱れる奥村。

 俺は跨るその体を少し押しのけ、上体を起こす。向かい合うように座り、一点をジッと見つめる。


「んっ、んーー〜〜♡」

 熱い視線を曲解し、奥村は唇と舌を差し出す。まるでそれを望んでいたように俺は答え、そして主導権を勝ち取った。


 まだ、まだだ。タイミングを見極めろ。その瞬間は必ず来る。その大きな"波"を待て。


「んっ♡ あっ、あっーー♡」


 奥村は満たされていた。何時間、何十時間とき止められていたものが、奥底から溢れてくるのを感じていた。

 汗が滲み、体が熱い。今まで感じた事の無い何かが、来る。と頭が真っ白になっていた。


 息遣い荒く、目が座り始めた。師人はその前兆を見逃さなかった。崩れかけた理性ダムを後押しするように、耳元で囁く。


「愛してるよ」


「ーーーーーーッ♡!!!」

 効果は覿面てきめん。決壊した壁から巨大な"波"が押し寄せ、奥村は人生で感じたことの無い絶頂に苦しんだ。

 仰け反る体がビクビクっと震え、ぎゅーーっと内側が締まる。と同時に視界は天井へと移り、急所が前へと突き出された。この瞬間を────ずっと待っていた。


「カルトッ!!!」


 刹那に満たない。師人の赤黒い腕は最短距離で美しい曲線を描き、斜めからそのに鋭い掌底を当てる。


 瞬間、奥村の獣のような嬌声が……消えた。


「──────ッ」

 逸れた上体は脱力し、預ける形で師人の肩にもたれ掛かる。と同時に変身がゆっくりと解けた。


 師人は人形のように動かなくなった身体に触れ、意識を確認。幸せそうな顔で気絶している。

その様子に油断していると寝言で「もっとぉ……」と言い出したので拘束をより強く縛った。



 その後、組織へと連絡、身柄を引き渡した。しばらくして未登録の一般人だと判明。のち、処遇が決定された。

 特異局専属の契約系能力者による行動制限、主に犯罪行為に関するモノを封じたのち、職員による監視指定が実行された。


 B級以上であり適当な能力と人格を持つ者と共に生活し、その状態を管理する。そして今回、その職務に指名されたのは──────


「おかえりなさいませ、師人様♡」


 劇的に変わる俺の日常、過ぎ去っていく穏やかな人生。上品なお辞儀で出迎えるメイドを前に俺は、ため息混じりに「ただいま」と返事した。

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