変わりゆく日常④
七海は意識を取り戻し、肉体は傷一つ無いほどに修復された。しかし被害に対する防衛反応なのか、事件発生時の記憶が
犯人探しに必須の情報だが、心の傷を無理に開くことは無い。両親に連絡を済ませた俺は数時間後、病院を後にして電車に乗った。
席を確保し、腰を落ち着かせて外の景色を覗く。そして流れゆく街の景観を横目にボソッと呟いた。
「ありがとな」
揺れる列車内、辛うじて聞こえる声と脈絡の無い言葉。そんな透明な意図を漏らすことなくカルトは掴む。
『お安い御用さ、相棒。どうしてもってんなら"貸し"って事にしとくぜ』
「…………」
独りでに微笑む師人に周囲は困惑する。奇妙な光景であったが、その幸せそうな様子に乗客は不思議と嫌悪感を感じなかった。
それから幾つかの駅へ停車後、電車から降りた。
しばらく歩くこと五分。とあるマンションに入る。エントラスのインターホンを鳴らし、エレベーターで移動。そして廊下を進んで目的の場所へ辿り着くと俺たちは、コントローラーを握っていた。
「その下Bキモいわ〜、シスコン動物園」
「お前の回避が甘ぇだけだろ、ブルブル電マ野郎」
ソファに座り、一つの画面を凝視しながら罵り合う。師人と相良は夕食の前にお決まりの格闘ゲームを興じていた。
「「……………」」
「「やんのかテメェッ!!」」
そしていつも通り画面外での殴り合いを始める始末。そんな大人しく遊ぶことも出来ない馬鹿達に、背後から近寄る人影が一つ。
「お〜い、ご飯出来たで〜!」
学校指定のセーラー服に赤いリボン、膝が少し見える程度に上げられた黒いスカートと長い靴下。しばらく前に渡した髪飾りも付けている。
相良との付き合いも長いが、この子とも結構な月日になる。初めて会った時から懐いてくれてた分、俺にとっては第二の妹みたいな子だ。
「ちょっと待ってくれ、
「言うたな師人。せやったらしゃーない、空腹で仕方ない自分に、ワイの確定コンボを食らわしたる」
「え〜、アンタら毎回長いやん。お風呂もまだ湧いてへんし、せやったらウチもゲーム混ぜてや」
「アカン、お前は見学しとけ」
兄に除け者にされた
「あの、画面見えにくいんですけど」
「師人兄ぃはウチのこと邪険にせんよな……?」
「……はい」
潤々とした上目遣いで見つめられ、師人は二つ返事しか出来ず受け入れてしまった。
太腿に乗る重みと暖かさに加え、長い後ろ髪からほんのり漂う汗と甘い匂いに集中力が大きくかき乱される。
結果惨敗。決着後、兄の方に散々煽られ血管が切れそうだった師人は、苛つく頭を静めるために朝陽の作ってくれた食事を前にしていた。
「師人兄ぃ、美味しい?」
「めちゃめちゃ美味い。朝陽は将来良いお嫁さんになるな」
「えへへ、そう? そうかもしれへんな……?」
「……………」
隣に座っていた朝陽の頭を撫でる。まだ高校生らしい
「師人、もしかして勘違いしてへんか?」
「……何を?」
意図がまったく理解出来なかった俺は、その質問を更に問いただす。するとやっぱり分かって無かったか、とその意味する所を放った。
「朝陽は男だぞ」
その指摘に師人はすかさず"下"を凝視した。そしてすぐに理解した。その様相が、恍惚とした表情と比例するように膨らんでいたからだ。
「あー……な、なるほどね。そういうパターンね、C3パターンね。でで、でもほら、愛があれば関係無いよな? そう家族愛的な────」
「それってウチのことを嫁さんとして
「え、いや違っ────」
小さい。しかし確実に、通常のスカート構造ではあり得ない位置に存在する『凸』がより膨張した。
何度となく瞬きを繰り返す。そして何度見ても間違い無い、と脳は逃げ場を無くす。
「そんなん言われたら……ウチ我慢できひんよ?」
頬を赤く染めた顔が、真っ直ぐに獲物を捉える。華奢な手が両肩を掴み、ゆっくりとその身を寄せる。
「今夜は寝かさへんで……? 師人兄ぃ♡」
師人はすぐさま反対席の親友へと救助を求めた。が、お前が悪いと言わんばかりに無視され、玄関に向かってその姿は消えてしまった。そして師人の長い長い夜が今────始まった。
「え、ちょ、ちょ待っ、アッーーーーーー!!!」
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