隠された力⑤

 それから状況は刻々と進んでいく。鏑木に足場となる結界を形成してもらい、準備を整える。

 遠近感が狂いそうなほど巨大な蛸型宇宙生物に、は狙いを定める。


「それじゃ、守護まもりは任せるよ。大丈夫そ?」

「あたりきしゃりきリンゴの木や」

「あた……なんすかそれ?」


 相良と清水は前衛に立ち、タンク役として蛸が飛ばしてくる木片や触手を壁張りと刀で弾き逸らす。

 その後ろにいる柊・師人・真鍋の三人は全神経を"溜め"に集中し、変異力を練り上げていく。


「スーーーーーッ」


 吸収限界を超えた"一発"。それを耐えられたが最後、その攻撃はそのまま返ってくる。それならば、危険リスク承知で賭けるしかない。


 そんな覚悟を察したのか、フロッドは徐ろに富士の麓に触手を突き刺し、何かを吸い始める。

 森に住む虫達は一斉に蠢き、空を飛んでいた鳥達は、より遠くへと逃げる。野生にも近い"勘"は相良も同様に感じ取っていた。


「おいまだか!? なんかヤバそうなん来るぞ!」


 催促を余所目よそめに、柊は両手を叩く。すると妖精は混ざり合い、炎熱と氷雪が圧縮される。

 かすみの構え。師人は黒刀を上段から持ち替え、力を注ぎ込み、その切っ先を目標へと向ける。

 音声認識を手動に切り替え安全装置を外し、照準を合わせ、真鍋は引き金に指を掛ける。


 遥か遠くで構える三人の"気"に、巨大な蛸がギョロリと動く。そして河豚ふぐのように富士から吸い出した熱量でより赤く、そしてより大きくその体躯からだを膨らませた。


「アレは……マズイっす!!」


 灼熱の溶岩が限界ギリギリまで、蛸の内蔵へと敷き詰められる。その風船のように破裂しそうな頭で加圧された溶岩は、地球人達へと狙いを定め、そして口から一気に放たれる。と同時。


「「「『三原色フェアリーズ』・『アーティファクト』・【かん】──────」」」


 後衛も準備を完了。三人の気配を察した清水と相良は瞬時に横へと身を躱し、すかさず前を開ける。

 灼熱のレーザーは真っ直ぐに空を駆け抜ける。瞬き厳禁。圧倒的な火力には必殺の一撃を────。


「「「『レイ』・起動オン・【なぎ】!!」」」


 極限まで引き付け、そして同時に放った。その光線は火山噴火すら凌駕するフロッドの攻撃を、いとも簡単に跳ね返し、余りある力でその巨大な頭を撃ち抜いた。

 

「…………ッ」

 そしてその力を目の当たりにした相良と清水も、驚愕を隠しきれなかった。


「………おいおい!」


 そう、その圧倒的な破壊力は"吸収"の余地すら与えず、フロッドの身体を消し炭にした。しかしそれと同時に…………。


「どうすんねんアレ!!」


 その攻撃は付近に位置していた富士山にも直撃。その山体さんたいは大きく削られ、子供の砂遊び場よろしく無惨に崩れ、そして消し炭と化してしまっていた。


「アカンアカン! これはさすがにアカンって!! ババアに殺されるどころの騒ぎやないぞ!!!」 


 任務達成を喜ぶべき所に問題トラブル発生。仕事柄よくあること。とはいえ、これは始末書どころの騒ぎではない。周りも事の大きさに気が付き、息を飲んだ。


「うーーん…………」


 相良に指摘された柊はポリポリと頬を掻きつつ悩む。美しかった山の残骸ざんがいを脳裏に焼き付けながら、しばらく考える。そして悩みに悩んだ末にポンっと手を叩き、結論を出した。


「よしっ! 全部タケシのせいにしよう!!」

「……えぁ!? なっ、なんだそ───ッ」

「みんな、それでいいよね〜?」

「「「賛成ーー!!」」」


 面倒くさい所は指名手配犯に押し付けることにした汚職員の一行。そして真鍋の悲痛な叫びは木霊することなく、人静かに樹海の闇へと消えていった。

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