隠された力②
衝撃が障壁を突き抜け、空に浮かぶ雲が散る。攻撃が放たれる直前、フロッドは身を躱し真鍋を投げ捨てた。しかしそれでも顔半分は消え去り、黒い煙が傷口から上がっている。
「響……!」
その様子に柊は得物を渡し、即座に指差す。これは千載一遇のチャンス。言葉にせずとも受け取った意図に、相良は地を踏みしめる。
フロッドの顔はぐずぐずに崩れ、硬直している。低い姿勢で這い寄り、背後を獲る。コチラの気配に気づいていない。"会心"の横一閃────首筋に
「こいつ……! "振動"まで吸収……!!」
硬直していたフロッドの身体が動き出す。半分しか無い顔が、半回転して相良に向く。
片目しか無い瞳がギョロリと血走り、頬が裂ける程に大きく口が開かれる。
「あ、これヤバいやつか……?」
グパァと開いた肺に腹一杯の空気を吸い込み、そして吸収した"攻撃"は全方向へと────
──────放たれた。
轟く衝撃波が辺りを破壊し瓦解させる。地に伏す真鍋は爆風に吹き飛ばされ、向こう側へと突き刺さる。柊は氷と植物を重ね、分厚い壁を展開し身を守った。
しかしその一方、至近距離から反撃された相良は回避すら出来ず、そしてその身に大いなる砲撃が襲い掛かる────ことは無かった。
「………?」
「ったく、何やってんだお前」
赤黒い霧を身に纏い、その翼で相楽を包み込む。覆ったその力を折り畳み、男はその姿を現した。
「師人……!!」
「あのさぁ、この状況からして俺のメインヒロインって相良なの?」
「怖っ、急に何言うてんねん」
「我を前に……貴様等………ッ!!」
冗談混じりの会話を広げる男達に、フロッドの鞭のような腕が唸る。と同時に
「やぁ、師人。グッドタイミング!」
「
「姐さんはちゃっかりしてんなぁ」
「それで、この状況は……?」
氷雪と植物の壁裏から情報を共有する。真鍋達と合流、敵のボス、吸収の天体術、お手上げ。と柊は簡潔に伝えた。
「だいたい分かりました。俺に任せてください」
「ほう、何か策でもあるんかいな?」
「策って程じゃないさ。前も言ったろ? "切り札"がある、って」
「ん、オーケー。それじゃあ任せた」
こくりと頷くと、師人は独りでに前へ出た。そして歩を進めると同時に黒刀を創造し、一振り空気を裂いた。
そして話の大部分、フロッドはその優れた聴覚で聞いていた。しかし止めなかった。なぜなら師人との単騎決戦は望む所だからだ。
「調子に乗るな、地球人。我を一人で倒せるとでも?」
「倒す、ってのは少し違うな半魚人。気分的には偶然見つけた魚を捌くようなもんさ」
後ろの二人に有効打は無い。ここでこの人間さえ打ち倒せば、我の勝利は揺るがない。
俺が殺されても後ろの二人なら問題無い。背陣には
と二人は不敵な笑みを浮かべる。
秒針が一つ進んだ刹那、間合いが近づく。緊張は電撃のように走り、感覚が深く鋭くそそり立つ。そして今───両者の火蓋は切られた。
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