未知との遭遇③

 光が体を包み込み聖なる力がその身に宿る。肩幅かたはばよりも大きな羽、頭上ずじょうに浮かぶ幾何学きかがく的なリング。白い衣装ドレス薄い赤ピンクのフリルを棚引たなびかせ、その姿は"魔法少女"を連想させる。


つき太陽たいよう懺悔ざんげ蛮行ばんこうあやまつはことわり


 姿を変えた少女は呪文を唱え、手元の杖をクルッと廻して空中を勢い良く蹴る。何も無いはずの空間を壁のように思いっきり踏みつける。その人外じみた脚力は物理法則を超越し、肉体を加速させる。


「『魔女の贈り物マジカルギフト』────」


 下へ下へと重力に乗って距離を詰める。まばたきにも満たない時の中、莫大ばくだいな力が杖へと集まる。

 その力は極小の空間内で幾重いくえにも増幅・収束を繰り返し蓄積されていく。そしてその時、その瞬間、完璧なタイミングで放たれるは究極の一撃。


「《破界クラッシュ》」


 地球上のどんな鉱物こうぶつよりも硬い皮膚、分厚ぶあつい筋肉がまるで風船のように弾け飛んだ。

 一つの島と見間違える程の巨大な体躯たいくは派手に打ち砕かれ、圧倒的な破壊力を前に海の藻屑もくずへと生まれ変わった。


 嘘……だろ…………。


 その勢いに煽られ銀の鍵アーティファクトと共に海中へ飛ばされたカルトは、水面みなもに差し込むの光を見ていた。原形をとどめることすら出来ず、宿主は木っ端微塵。


 そして自己保管できぬ自身カルトの身に、緩慢かんまんな死が襲い始める。


 海洋生物への寄生きせいを試みるも、変異力を持たない生命体では意味が無い。迫りくる活動限界。残り数分にも満たない窮地きゅうち。しかしそんな中でカルトは活路かつろ見出みいだした。それは暗闇を照らす一筋の光明、水中にただよっていた一人の地球人─────。


「それがお前だ……! 相棒!!」


 回送はなしが終わると急に叫び出したカルト。指を差し、そのフザけた見た目でジッとこちらを見つめている。


 "天国"のアーティファクト。ある条件を満たした者を文字通り、冥府へといざなう超常の遺物。

 死体へ乗り移っても偽物とバレ、またあの女に殺されるだけ。それならば……とカルトはアーティファクトを使用してココまで交渉におもむいた。


 と聞いても、この色鮮やかな草原の上では緊張感は無い。ある程度、話を咀嚼し理解したが呑み込めてはいない。師人はどうしたものか……と頭を掻きながら質問した。


「それで、俺は何をすればいい?」

「仮死状態になっているお前を蘇生なおしてやる。その代わりオレ様と───」


 そよ風が二人を優しく包み込む。白い雲がゆっくりと流れ、青く広がる晴天はどこまでも続く。日差しは暖かく、差し出された手は赤黒い。握手を求めてカルトが放った言葉は─────。


「オレ様と合体してくれ」

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