特異天

南雲ぜんいち

プロローグ

プロローグ①

 ある日、ある時、とある場所で人類は出会った。宇宙人との邂逅かいこうは恩恵と災難、その両者を地球へともたらした。


 無知の知。それは外への扉、特異点へと至る門。

 未知のウイルスは全世界へ蔓延まんえんし甚大な被害を拡げていく中、一部の人類はウイルスに適応。そして新たな能力を獲得した。


 突然変異した肉体は宇宙・森羅万象に漂う未知のダークエネルギー『変異力へんいりょく』の知覚・干渉を可能とし、人類史をまたたく間に変えていった。


 そしてそれから20年後────────。


清水しみず、アレが標的か?」


 地方都市の国道、そのど真ん中で暴れまわる巨大な生物。猪のような姿に大型トラックを連想させる体躯たいく。その背中からはたこのような触手が何本もうごめいている。

 視界にソレを捉えた師人しびとは、後ろにいた女に質問を投げかけた。


「そうっス、先生の情報とも一致してます」

「アカン……あの宇宙生物キモすぎへんか?」

相良さがら先輩、これも仕事っス」


 相良さがらは片手にかたなを、清水しみずは骨のような槍をたずさえている。

 車に向かって触手をなびかせ吹き飛ばし、建物に向かってぶつかり続ける巨大な獣。それを十数m離れた場所から目視する三人の男女。


「さっさと片付けて飲みに行くぞ」

「ほんま難儀な仕事やで」

 師人が口火を切ると同時、ほか二人も瞬時に合わせ目標へと距離を詰める。人とは思えぬ速さで接近する三人の攻撃は反応する隙さえ与えず、その体を捉える。


 槍は横腹を突き刺し、刃はその背中を切り刻む。


「産声を上げろ」

 そして先陣を切っていた師人の拳は首元にめり込み、その衝撃をもって獣を宙へと吹き飛ばした。


 グアアェッ、と嗚咽おえつのような叫び声と共に獣は紫色の血を噴き出し、重力によってコンクリ製の床へと叩きつけられる。

 小刻みにビクビクッと震わせ横たわるその姿には先程までの生気せいきは感じない。


「よっしゃ、討伐完了や!」

清水しみず、念のために捕獲……──」

「先輩? どうしたんスか?」

 清水が師人の顔を覗くと、その視線は真っ直ぐに倒れた獣。のへ向いていた。


 動く気配の無い獣の後ろから、がコチラに近づいて来る。

 ゆっくりと進み、そして横たわる獣を前にして、その生物はボソッと呟いた。


「□§¶✴〽∌……」


 言の葉を発するその生物は地球上に存在しない声帯と情報を放ち、そして落胆した姿を見せる。


「なんややっこさん、アマノガワ言語ちゃうな」

「敵……っスよね」

「銀河外の惑星人だろうな」

「飼い主ちゃうか? ペットにはちゃんと首輪つけなアカンやろ」


 相良さがらの軽口に気が付いたのか、宇宙人の表情には怒気が溢れ、ゆっくりと体をコチラに向ける。


「めっちゃ怒っとるやん」

「お前が煽るからだろ」


 相良はヤレヤレと肩をすくめ、師人はその肩を軽く小突く。そんな二人に清水は心配そうに問いかけた。


「先輩方……コレどうしますか?」

「決まってる」

「鉄板や」


 三人に作戦を立てる暇など与えない。敵対する地球人へ敵意を放ち、人外は手の平を前へと伸ばしながら詠唱を紡ぐ。


Θ§◆〇±ΒΨЁ第五天体術───」


 放つ言葉に空気が歪み、膨大な熱が周囲へ集まる。人知を超えた力が殺意と共に向けられる。

 しかしそんな術を前にしても、男二人は泰然たいぜんと構え、そして口を揃えて大きく叫んだ。


「「宇宙の果てまでぶっ飛ばす!!!」」

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