第15話 パンツ功労者

「あのー、まだ怒ってる?」


 シュヴァリエが無言でにらみ返してくる。


 うん、こんなに鋭い視線なら針なんて買わなくてよかったね。俺がめった刺しなのは変わらないし。


「で、でもさ。すぐ目をそらしたのは偉くない?」

「見たことに変わりありません」


 言い訳も即座に切り捨てられる。


 襲撃のせいで締まらない結末となってしまった外出の翌日、後処理を大人たちに任せて俺はシュヴァリエの機嫌取りに奔走していた。


 リビングに紅茶をすする音だけが響く。

 対面に座ったまま一言も発さない。


 気まずい……。


 気を紛らわせようと昨日の襲撃を思い返す。

『クジラ』は死体を発見できなかった。しかし、至近距離で『自爆』が直撃したのは間違いない。

 デュネブによると公式では死亡として処理されてはいないらしいが死んだと見ていいだろうな。


『エコー』は遅れてやってきた警備兵に逮捕され、今はうちの地下牢にいるらしい。


 それもこれもシュヴァリエの協力があってこそだったんだけど本人はパンツが丸見えだったことの方が印象に残ってるみたいだ。


「全部台無しですよ。せっかく好感度上がってたのに……」

「え? 好感度上がってたの? デートして正解だったな」

「全部台無しになったって言ってるじゃないですかぁ! 一回死んで生まれ変わったほうがいいんじゃないですか!?」


 腰の剣に手を駆けるシュヴァリエの顔は耳まで真っ赤に染まりあがっていた。


「パンツ見られた責任取れってこと?」

「別にそういうわけでは……」


 まあ、男の性として本能的にガン見したのは事実だからなぁ。


「でも責任はもう取れない」

「だからそういう話じゃ……え?」


 シュヴァリエはその青く澄んだ目を丸くしてこちらを見上げる。


「だって婚約してるしそれ以上責任は負えない気がするんだけどなぁ」


 チラリとシュヴァリエの顔を覗くと真っ赤だった顔がさらに赤く染まってしゅんしゅんと蒸気を噴き上げている。


 ちょろいな。

 親に決められた婚約だって言ってたのに。


 シュヴァリエはぎこちない動作でうつむくと消え入りそうな声で、


「もう……もうやめてください……心がもたないです……」


 そのまま顔を覆い固まってしまった。


 さすがにからかいすぎたか。


 さてこれからどう謝ろうかとおろおろしていると、


「坊ちゃま、女性を泣かせるのはどうかと思いますけど……」


 いつの間にか扉近くに立っていたデュネブに眉を顰められる。


「違うからね!? 別に泣かせてないから!?」


 うつむいて固まっちゃったのは俺のせいだけどシュヴァリエ、泣いてないよ!?

 そんな人を女泣かせみたいに言わないでもらえるかなぁ!?

 一応前世は教室の隅っこで暮らしてた人間なんだけど。


 そんな俺の葛藤も知らず、シュヴァリエは指の隙間から目だけこちらに向ける。


「責任取れないって言われました。泣かせたのに」

「え、えぇ?」


 彼女と目が合うと、してやったりとでもいうような顔でこちらを見ていた。


 卑怯な……何も言えなくなる!


 俺もにらみ返し壮絶な視線の戦いを繰り広げているとデュネブから休戦の咳払いが入る。


「それはともかくとして以前わたくしに依頼された剣術の先生の件ですがあさってから屋敷に来られるそうですよ」

「おお! 助かる! で、誰が来る?」


 もうせめて裏切らない人が来てくれ……騎士団長とか有名冒険者とかじゃなくていいから。


 デュネブは何事もないようにその名前を口にした。


「オリオン・デロス。元S級冒険者ですね」


 綺麗にフラグを回収し呆然としている俺の脳内にさらに追い打ちをかけるような情報が浮かんできた。


 オリオン、シナリオ内で主人公裏切ってたじゃん。


 まだ死亡フラグは立ち続ける予感しかない。


 ☆

【デュネブ視点】


 クレイモア邸執務室──


「襲撃者については」

「『エコー』と名乗る者が黙秘を続けておりそちらの進展はなし。死亡したと思われる者についてはステッキから王国騎士団に所属していた者だと思われることが判明しました」

「逮捕者については何をしてもよい。必ず手掛かりを聞き出せ。必ずだ」


 いつになく強い口調で当主様は命令し側にいた使用人どもを仕事に戻らせた。


 部屋に張り詰めたような沈黙が流れる。


 一度泳がせたとしても二度も坊ちゃまが襲撃を受けたとなればクレイモア家の警備体制が脆弱なことは火を見るより明らかだ。

 貴族としての面子、領主としての信頼を守るためにも解決に向けて熱心になっているのだろう。


 仏頂面の奥に隠れる思惑を想像しながら私はさらに口を開いた。


「坊ちゃま本人についてなのですが」

「何かあるのか?」

「襲撃時に観測された爆発。あの爆発は坊ちゃまが発生させたのではないでしょうか」


 今回の襲撃の際、警備隊が駆けつける要因となったのは職人街上空での爆発だった。

 女の襲撃者をシュヴァリエ様がとらえていた状況を見るにあの爆発は坊ちゃまが起こした可能性が高い。


「ガニメデスの事件の際も森の中心部で爆発があったと聞いています。もしかすると坊ちゃまのスキルではないかと予測しているのですが」


 当主様は椅子に背を預け考え込んでしまいました。


「スキルかはたまた魔法か……」

「魔法はあり得ません。爆発を発生させる魔法は自爆魔法しかないのですから。使用していたらいまごろ坊ちゃまは亡くなっていたはずです」

「デュネブ、お前が見ておけ。幼くとも奴は有用な駒だ。情報はあるに限る」


 そう言うと当主様はそっぽを向き私を下がらせました。


 あさってからのオリオンとの訓練、もしスキルを使うようなことがあれば本人に直接聞きましょう。隠すことでもないですし。


 それにオリオン相手にスキルを使用しないことはあり得ませんからね。


──────────────────────────────────────


【あとがき】


少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」「期待できる!」と思っていただけましたら


広告下から作品のフォローと星を入れていただけますとうれしいです。

是非作者のフォローもお願いします!!


読者の皆様からの応援が執筆の何よりのモチベーションになります。


なにとぞ、よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る