第3話 さすが噛ませ犬系、面構えが違う

 人生万事塞翁が馬、だっけ。

 人生の幸、不幸は予測できないという意味だったと思う。


 だけど、レグルスに転生した今ならこう言うことができる。


「もう不幸しか待ち受けてないだろこの身体。不幸になんかモテたくないんだけど」


 俺は大の字に倒れた。

 腕の筋肉はとっくに悲鳴をあげている。


「坊ちゃま、少し休憩しましょうか?」

「いや……もう少しだけやらせてくれ」


 乳酸のたまった腕にむち打ち、もう一度木剣を振り始める。


 ガニメデスの訓練は単純。木剣での素振りのみ。

 しかし、そんな単純な動作でも、この貴族の坊ちゃんの貧弱な体では5回繰り返すのが限界らしい。


 この身体はそもそも筋肉量が少ないので、できないのはしょうがないですよと苦笑い気味に慰められる始末。


「……ふっ!」


 全力で振っても風を切る音すらならない。


「最後の一回……!」


 ドサッ

 跪くように倒れこむ。


 倒れ方だけかっこよくなっても意味ないんだよ。やられ役決定じゃん。


「坊ちゃま! さすがに休憩しましょう」

「もう一回……!」


 気力を振り絞って立ち上がり剣を振り下ろした。


「どぉらっしゃいいい!!」


 フォン

 おし!! 気力根性で何とかなるもんだな!!


「そのままもう一回!!」


 バタン!!

 精根力尽きて仰向けに倒れこんだ。


「坊ちゃまああ! 意欲があるなか申し上げにくいのですが休憩しましょう! ね!」


 気力だけだと身体って動かせないらしい。

 これホントに成長してんのかなぁー。

 さっきの風切る音だって火事場の馬鹿力的なもので出した可能性あるし。

 こういう時ステータス表示出来たら便利なんだけどなぁ。


「ステータス」

「はい? 何か言いました?」


 お前は反応しなくていいんだよガニメデス!

 ステータスは表示されないし……。


 剣術の練習は少しづつ地道にやっていくしかなさそうだ。


 そう結論付け、剣術の練習の合間に魔法も練習することにした。

 教師は引き続きガニメデスである。


「そう、そうです! そのように魔力を込めまして──」


 ボガァン!!


 籠めすぎた魔力が暴発し俺は吹き飛ばされた。


 素人の俺が習ったところで魔法も剣と同様に才能なしだった。


 魔法を打とうと魔力を籠めれば暴発するし、うまく発動できても魔力切れですぐ倒れこんでしまう。


 訳も分からず自爆魔法を発動しかけていた時なんてガニメデスに全力で止められもした。


 異世界に来たといっても俺が持たざる者であることには変わらなかった。


「大丈夫、まだチュートリアルだ。……死にかけたし主人公みたいなチート能力なんてないけど何とかなるはず。というか死亡フラグがある時点で努力しなければ満足に生きながらえないからな」


 フラグを避けるだけなら辺境にでも駆け込んで隠居スローライフすればいいけど、俺のゲーマー、このゲームの全クリ達成者としての矜持が許さない。


 それに──


「俺のために働いてくれた二人を裏切ることになるしなぁ」


 貴重な時間を使わせてまで俺のために働いてくれているのだ。その働きに報いるほどの成果を俺が出さなければ彼らに申し訳ないだろう。


「それに逃げたら最推しに会えなくなるしね!」


 目標を持つ。大事。それがオタクっぽくてもね。


 ちなみに最推しは主人公の許嫁です。


「うん。今のままじゃ無理っぽい」


 泣きそうになるのを何とかこらえる。


「よし、もう少し続けるからガニメデスよろしく!!」


 少しだけ力の戻った腕で木剣を握りなおす。


「坊ちゃま、変わられましたね。前まであんなに部屋に引きこもっていらっしゃったのに」


 うーん、この怠けヤロウが。


 使用人たちにどう思われてたか容易に想像できるな。

 評判上げはしないとなー。身内に暗殺されるルートもあるし仲良くなっておくに越したことはない。


「このままだといつ死ぬかわからないからね。無抵抗で死にたくないんだよ」


 その言葉に、ガニメデスは少し驚いた様子を見せつつも、俺に筋骨隆々のサムズアップを返してきた。


「そう坊ちゃまがおっしゃるなら最低限身を守れるようにはして見せます! ですがそこから剣士として極めていくかは坊ちゃん次第です! いいですね?」

「おうとも!!」

「スパルタで行きますよ!! 筋トレも欠かさずに!! せーの、筋肉!!!」


 それだけは言いたくないかなぁ!!


 その日から一日一日が大変なものになっていた。


 腕が上がらなくなるまで剣を振り、休憩と称して座りながら魔力を込める練習を行う。その繰り返し。


 すると徐々に体力も増え、魔力の制御も安定するようになっていった。

 このゲームは使用した経験を積めば積むほど経験値がたまり強くなっていく。もちろん筋トレも欠かさない。


「さあ、次は腕立て伏せです!! ほら筋肉!! マッスル!!」

「掛け声統一しろよ!! うおおおお!!」


 ミシミシと筋肉がきしむ痛みに耐えながら鍛えていった。


 そして3か月がたとうとしていた。


 剣術は手加減してもらってはいるがガニメデスと打ち合えるほどに上達し、魔法は「自爆魔法」を覚えるまでになっていた。


 はい……。魔法、そんなに上達しなかったです……。なぜか「自爆魔法」だけ発動できることが判明しましたね。全力でデュネブに止められたけど。


 まあ、得意不得意が分かっただけ良しとしよう!


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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