09 慣れたらお◯ぱい吸わせてくれるの!?



「ママァ!! ママァ!!」


「おー、よしよし、おー……よし、よし……」


 なんだこれ。地獄か?




 その日は大学で誰とも会話をすることなく1日を終えた。あのラーメン屋さんの油そばは美味しいけど、ラーメンの味は普通だったなとは思った。

 ちなみに、今現在のコマ数はこんな感じ。

 総取得単位は24で計算してる。


 月曜日:二限、三源、四限(大講義室)

 火曜日:一限(外国語)、三限、四限

 水曜日:三限、五限(なんか友達作れるっていう講義)

 木曜日:三眼、四限

 金曜日:二限、三眼、五限(外国語)


 こんな感じです。全部、外国語以外は取得単位が2つもらえるのを選んでます。

 一限は極力取りたくなかった。早起きがあまり得意じゃないし。そんなこんなで今日は水曜日で最後が五限だから六時くらいに大学自体は終わった訳です。


(今日の五限にあった、キャリアアップなんとかってのもなぁ……人とは話すけど、仲いい人ができないんだよな)


 最低限の会話を済ませて終わり。相変わらずボッチというかなんというか。軽くは話せれるけどその人達が『友人』と呼べるかと言われると否だ。


 まぁ、学生の本分は学ぶことだもの。

 うん。そうだ。きっとそうだ。だからボッチでもいいんだもん。


 最近が急にカロリーが増えただけで、いつもの日常に戻ってきたって感じだし。とりあえず……蒼央さんのお手伝いをしにいかないと──


「今日は心音くんじゃなくて、ママね」


 部屋に上がるやいなやそんなことを言われて思考停止。こめかみをもんでも事態が変わるわけでもなく。案内されるままにソファに座らされて、カラコロと音がなるおもちゃを持たされた。


 なんだこれ……。

 いや、おもちゃはしってる。あやす時に鳴らすおもちゃだ。

 そうじゃなくて……!


「だっこはしてもらうのまだ恥ずかしいから、ちょっとまっててね。あ、服はそこに用意してるの着て!!」


 まだ……ってことは、今後はさせる予定が……ある? 

 それに用意されてる服って


「……えーと。あーーー……」


 一時期ネットに出てた肩カットのセーター。いわゆる『童貞を殺す服』ってやつだ。ネットで見て「うわぁ」って思ったのを自分が着ることになるとは。

 

「おカネもらってるからって……」

 

 だが悲しいかな。これも仕事よ。着るしか無いのである。

 サイズもピッタリ。でも、胸がない分、ストンッって平べったくなってる。横とかガラガラなんだけど、こんな服よく着れるな……。


 そうしていると部屋に引っ込んでいた蒼央さんが顔をのぞかせて、心の底からの笑顔を浮かべてこっちにきた。


「おまたせー! ママァ!」


 よだれかけをクビから下げて、隣に座って頭だけをこっちに預けてくる。


「えーと、赤ちゃん……の、そういう、なんか……えーと」


「ストレス社会に生きてたら、赤ちゃんにならねぇとやってけないときがあるもんよ!! だから、今日はママね。わたしは赤ちゃんだから。ハイ復唱」

  

「……ぼくはママ。ぼくはママ」


「そう。ほら、甘やかしてくれ!」


「赤ちゃん……えーと、よしよし……?」


「〜!! ママぁ!!」


「あー(諦め)」


 蒼央さんのこんな姿を見たくなかったというのが近い。

 あんな立派で、キレイだった蒼央さんが見るも無残な姿に……。


「ママ〜?」


「ん〜? どうしたのかなぁ〜?」


「おちごとがんばったからほめて〜」


「おー……よちよち。毎日、お仕事がんばれてエライね〜! 自慢の子どもだよー? うん」


 赤ちゃんがお仕事してる設定か? いや、深く考えなくていいか。

 それにしても……こんなんでいいのか? 


 あやす行為自体は妹が生まれた時になんとなくやった覚えがあるけど……あとは、親戚が家に赤ちゃんを連れてきたことがあって、それをあやしたことがあるくらいだ。


「ふ、ふぁ〜。ママだぁ……」


「どうしたのかなぁ〜? ママだよぉ〜。ちょっと眠たいのかなぁ?」


 いや、満足な様子だからこのままで行こう。己を殺せ。

 ぼくはいまママなんだ。蒼央さんのママ。白濱家の心音ママだ。

 ……いやいや、無茶すぎて自己暗示もかからんて。

 とりあえずは頭を撫でる手と、カラコロを鳴らす手は止めず。


「ふ、ふぇ。おなか空いたぁ〜……」


 ん。あ、そうか。今日は五限までやってたから……もう19時か。


「それじゃあ料理をしてこようかな」


「おっぱい!!!」


「お、おっぱい……」


 うわっ、すごい期待の眼差ししてる。キラキラした目を。


「あ、あの。蒼央さん……」


「ばぶばぶ」


「通じないんだ。そっか、赤ちゃん……」


 赤ちゃんの食事ってなったら、母乳……。いや、こんなに体が大きい赤ちゃんは離乳食とか始まってるはずだろう。

 

「哺乳瓶、とか。離乳食とか」


「生まれたばかりの赤ちゃんなので、母乳がいいばぶ」


 膝の上でいごいごと駄々をこねられ、はぁ、とため息をついた。


「……さいですか」


 詰んだか? えっ、本当に自分の胸を……蒼央さんに……? 

 えーと、えー……あ。


 ──まずい。想像してしまった。


「……?」


「……あのっ、蒼央さんっ……胸はさすがに……」


「えー? 赤ちゃんなのに……」


 ──まずい。まずい、まずいまずい……!! 

 ぼくの太もも、がんばれ。ぜったいにそいつを離すんじゃない。


「まだ……ちょっとレベルが足りなくて。その、もうちょっと慣れてからで……」


 ちょっと姿勢を前に倒した。太ももの上の蒼央さんが変に動くから、ぼくがあんまり動けない。というか、動いたら……死ぬ……!!


「えっ。慣れたらおっぱい吸わせてくれるのっ!?」


「え。あの、いやっ……その……2000円じゃ、ちょっと」


 血液が。意識が。……下半身に。

 反応するな。冷静になれ。大丈夫。深呼吸……。


「ふぅ……っ」


「だったら、慣れて時給を上げたら吸わせてくれるんだね!?」


「ふぃっ!? ちがっ!! あ──」


 ──こつ。


「ンっ」


 蒼央さんの体がぼくの方に少しだけ浮き上がった。

 視線が泳ぐ。

 体があつい。

 蒼央さんの方をまともに見れない……!! 


「…………」


「……」


 蒼央さんは浮き上がった体を確かめるように体重をかけ、ぼくのソレをグイと押して……こちらを見上げてきた。

 ぼくは撫でていた手やおもちゃをもっていた手でかおを隠した。

 逃げ場がないから、こうでもしないと。でも、視界を塞げば、感覚のほうに意識がいっちゃって。


「……」


「え、あ、この背中にあたってるのって」


「ご、ごめんなさい……」


「あ、やっぱり……あ、ははは。男の子だもんね……」


「…………」


「……」


「蒼央さん、ちょっと……提案なんですが……休憩、しませんか」


「うん……」


 蒼央さんに起き上がってもらい、流れるようにキッチンの方に逃げた。

 そして、屈み込んで、男という生物の本能を恨んだ。


「…………だ、だいじょうぶだよ〜? きにしてないしぃ……」


「ちょっと……ひとりに、させてください」


 そりゃあ、ぼくも男だし。大学生にもなれば、その、そういうこともあるのは仕方ないというか。うん。自然現象だから、ちょっとしたらおちつく……。


「…………ぼく、さいていだ……」


 

      ◇◇◇



 私の名前は白濱蒼央。

 小説家として生きている社会人女性です。一応、常識人だと自分では思っています。

 最近、小説家としての仕事を円滑化にするために女の子にしか見えない男の子を家に招くことになりました。

 

 その子が本当にいい子で、なんでも言うことを聞いてくれるし、優しいし、家事もできるからって完全に甘えていて。今日はその、ストレス発散のためにネットで見つけた『赤ちゃんプレイ』なるものをしようと思っていたのですが……。


 背中にあたった弾力性のある力強いモノの感触。

 

(これって……そういう、アレ、だよね)


 その部位をさすり……キッチンの方に目を向ける。

 ようやく事態を飲み込めて、キュゥゥと熱が頭にまで登ってきた。


「…………あっつぃ」


 ぱたぱたと手で扇いでも、その熱はなかなか冷めることはなかった。


 

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