第3話〜同室

 案内された宿は思ったよりも近く、そして大きかった。この島の建造物は昔ながらの平屋だったがまだ新しく建てられたかのように見える。


「この家だ。全部使っていいって村長が言ってた」

「丸ごと使っていいのか!」

「後は勝手にしてくれ。俺はやることがあるんだ」


 暖かいとは言えない対応に、針口の心は傷ついた。彼はどこか遠い所に行ってしまった。


「何かアイツ、冷たい奴なのだ。ずっとあちき見てたくせにぃ」

「あるじたん可愛いからなぁ。まだ思春期なんだろ」


 強介はもう成人しているはずだが、服装が発展途上国の子供である。その事にヴェニアミンは引っかかっていた。


「中に入ろう、暑い」

「それもそうだな…秋田だったら有り得ない日の強さだ」


 それよりもこの日照りが冬国出身と秋田出身には耐え難い苦痛である。


 中に入ると、玄関は広く、近くには埃が溜まったキッチンがあった。確かに広々としているのには間違いないが何となく嫌な感じがした。


「これ襖で仕切るタイプの部屋なのだ」

「実質一部屋しかないわけだな」

「台所も風呂トイレもあるよ、安泰だね」


 靴を適当に脱いで、部屋中を走り回って確認している。

 そして全員、部屋を見終わった後に荷物を自室に持っていこうとする。


「そういえばお前らの荷物何か多くないか?」


 針口の荷物はリュック一つだけであり、中は着替えやスマホ等の現代人の必須品が入っている。

 対して、同行者二人の荷物は彼の二倍程であり、水音や物が擦れる音まで聞こえる。


「女の子には色々あるのだ」

「そうだよ、ニアミンにも色々とあるから」

「いや理由になってねぇよ。後者は何だよ」


 こうして同室になった三人は各々の部屋に行き、荷物を整理した。荷物の少ない針口は一番早く終わったのだが、一人で出歩くのも寂しいと思い、二人を待っていた。


 しばらくしてヴェニアミンが来た時よりも軽い装いで、玄関から出ていく。


「森行ってくるね」

「唐突だな。まぁ俺も着いていくけど」

「勿論あちきも行くのだ」


 暇だった二人もそれに着いていくと、彼は嫌そうな雰囲気を出している。


「旅は道連れなのだ」

「そういう所だぞ保育士め」


 何はともあれ、三人はキツい日差しに照らされながらこの島の森へと行く。

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