第3話 あける

夜が明ける

あれからひたすら二有無は藍火の胸の上で泣いた

そこから、二人は寝た

疲れていたのだろう、互いにぐっすりと寝た


翌朝、二人は起床する

昨日の闇に包まれた世界とは打って変わって、翌朝になるとすっかり日が家を照らしていた

小鳥のさえずりが響き渡る

二有無は時を同じくして起きたアイカに向かって言った


「.....おはよう、藍火」


「うん.....」


「昨日は.....ありがとう」


「.....うん、いいよ」


そう二人は荒れた部屋で言った

時は9:00、もうすっかり日は登ってくる頃

高校生は学校に着き、授業を受けている頃


そんな状況で二有無は藍火の手を取り言った


「俺.....目標が出来た。藍火さんの記憶を取り戻す」


二人は手を取り合った


これは家族を失い孤独な二有無が

海で見かけた少女の記憶を取り戻すお話


______________________________________


「え、と。とりあえず体をきれいにしますか.....?」


二有無は藍火から目を少し背ける

藍火の今の姿は波でさらわれた物で破られたのか、盛大に上半身が露出している

服も泥で汚れており、肌を傷つける恐れがある

少しでも放っておいたら感染症にかかる危険があった


二有無は家からタオルを持ってきて、藍火にかける

そして、風呂場へ連れて行った


(あー、どうしよう。なんで昨日あんなことしちゃったんだろう.....。冷静に振り返ったら何か恥ずかしくなってきた。あのまま放置してたら死んでた可能性もあるのに。何やってんだ.....僕)


そんなことを二有無は考えながら、風呂場へと向かった

ギシギシと床がきしみ、音を立てて

踏み外して底が抜けないように二有無は慎重にあるっていく

藍火はその後をついていった


「ここが.....僕の家の風呂場」


自信なさげに二有無は言った

その風呂場は何もなかった

浴槽も配管もシャワーも

風呂場とは呼べないほど何もなかった


「何も.....ないけど」

「ああ.....一応水道は通ってるから。台所に唯一ある水道から水を汲んできて、それで毎日洗ってるんだよね。ちょっとここで待ってて」


それを聞いて、藍火はぺたりと座り込む


一方、二有無は台所に行き

そして、桶に水をたっぷり入れて再び風呂場へと戻った

風呂場の扉を開けた


「あっ!ごめっ.....」


二有無は扉を開けてすぐに目を手で覆う

その風呂場には全身裸の藍火の姿があったからだ

二有無が桶で水を持ってくる間、藍火は服を脱いでいた


女子の裸に耐性が全くない二有無は顔を真っ赤にする


「別に.....大丈夫。裸を見られても」

「あっ、そそう?まあい、一応見ないようにするから」


二有無は出来るだけ裸を見ないように別の方向を向く

ゆっくりと座り、持っていた桶を風呂場に置いた

そして、柔らかいタオルを桶にある水につける


チャプン


そう心地よい音が小さく響く

風呂場で二有無の洗い作業が始まった



無言が続く中

二有無が藍火の背中を洗っている所で、藍火は二有無に向かって声をかけた


「ねえ.....」


「うん?」


「なんで、私のことを助けたの?」


「えっ!?そ、それは.....」


その質問に二有無は言葉が詰まる

少し考えた後、二有無はポツリポツリと話し始めた


「僕さ.....両親が死んだあと一人だったんだよね。でさ、昨日好きな子への告白にも振られて。死にたい気分だった。だけど、君が現れて.....君を助けたら孤独から解放されるのかな.....って思って助けた」


二有無が藍火の背中を洗いながら、そう言った


「私も.....。私も記憶がないけど、今まで一人だった気がする。だから、あの日君が助けてくれて嬉しかった。ねえ.....」


そう言って、藍火は後ろを振り向いた


「二有無君。私を.....独りにしない?」


突然の藍火の裸に、二有無はしどろもどろになる

が、少ししして真剣な表情で藍火を見つめて言った


「うん!僕貧乏だけど.....藍火を絶対に独りにしない!」


その言葉に藍火はぱあっと顔を笑顔にして、裸のまま二有無に抱き着いた


「嬉しい.....。絶対に独りにしないでね。絶対に私の側に居させてね.....」

「うん!」


その言葉に二有無は迷わずそう答える

二有無はその言葉の意味を深く考えずに頷いた

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