第2眠

 ――う~ん、むにゃむにゃ。


 むにゃ?


 ……。


 んん?


 ………………?


 なんか良く分からんけど、目が覚めたのにまだ真っ白な世界にいた。

 目が覚めたのに、まだ目が覚めていないとはこれ如何に?


 う~ん、なんか良く分からんけど、たぶんこれは夢じゃないってことなんだろう。

 むう、めんどくさいな~。


『――汝、世界を渡るにあたり何を望む?』


 すると、どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 一眠りする前に聞こえてきた神様の声だ。

 律儀にも俺が目覚めるまで待っていてくれたみたいで、もまだ有効らしい。


 異世界に行くのはめんどくさくてたまらないが、こうなっては仕方がない。

 とびっきりの特典チートをもらって、異世界でもごろごろできるように最善を尽くそうじゃないか。


 う~ん、そうだな……



 ……



 ……



 ……



「じゃあ、全てを『鑑定』する能力を下さい」


 色々と考えた結果、俺はそれを神様にお願いすることにした。



 ――言わずと知れたチートの代表格『鑑定』。


 その性能は凄まじく、自身の能力の把握は勿論のこと、敵対者に使えばその能力は丸裸も同然。

 物の真贋が見極められるから、商人になれば粗悪品をつかまされるなんてこともなくなるし、古物商にでもなれば最強じゃないだろうか。

 異世界の定番職業『冒険者』でも、薬草採集一つ取ったって他の雑草と間違えることは無いし、希少価値の高い採集物だって簡単に集められる。

 中でも、自分自身を鑑定して、それを元に鍛えて異常なまでの成長を遂げるなんていうのは、ネット小説においては定番中の定番、テンプレ・オブ・テンプレだ。

 それでなくても、『全ての物を正確に鑑定できる』というのが人間社会においてどれだけ有用か、想像するに難くないだろう。


 それがこの『鑑定』という能力だ。



『よかろう』


 そう言って神様は鷹揚に言葉を返す。

 しかし、俺は神様が次の言葉を発する前に、すかさず続きの言葉を述べていく。


「――それに『身体能力強化』と『全魔法適正』、『魔力操作LV MAX』もセットで」





 ……だって、『鑑定』だけじゃ異世界での生活なんて心配だし?

 どうせなら楽して稼いで、ず~っとごろごろ寝ていられる環境を整えておきたいじゃないか。

 現代社会に生きるもやし人間が異世界で通用するわけもないので『身体能力強化』は必須。

 それに『魔法』って、どのネット小説でも特別な技能としての地位が高いから、それが十全に使えれば生活基盤が安定すること間違いなし。

 イエス・イージーモード、ノット・ハードモードの精神だ。


『――よかろう』 


 そんな俺の考えなどお構いなしに、神様は先程と同じように鷹揚に言葉を返してくれた。

 事務的というかなんというか、望みチートを追加したことなんてまるで気にも留めていない口調である。


 …………。


 ひょっとして、神様だから人間と感覚が違うのかな?

 スケールが違うから、この程度の望みなら一つでも二つでも誤差の範囲ってことなのだろうか。


 って、あれ?

 そういえば叶えてくれる望みは『一つ』って言われていないような……


「え〜っと、『成長力強化』と『成長限界突破』も追加で…………」


『よかろう』


 すると、俺の考えを肯定するかのように、神様は先程と全く変わらないトーンで言葉を返してくれた。


 ……よし、そうと分かれば話は早い。


「物を収納する『ストレージ』も下さい。勿論、容量無限の時間停止機能付きのヤツです」


『よかろう』


「『究極の生命力』と『無限の魔力』もあった方がいいかな」


『よかろう』


「痛いのは嫌なので『物理攻撃無効』と『魔法攻撃無効』、それに『全状態異常無効』とあとは……まあいいや、とにかく『害のあるものは全部無効』で」


『よかろう』


「健やかに寝ていたいのでずっと『健康』でいられるのも重要です!」


『よかろう』


「あっそうだ『異世界知識』と『言語理解』を忘れてた」


『よかろう』


「あとは『優秀なナビゲーター』なんかも、いたら良いと思います」


『よかろう』


「それから、それから……」



 ……




 …………




 ………………





「……あと、これが一番重要なんですけど、これから行く世界は『ごろごろ寝てても問題ない世界』にして下さい」


『よかろう』


 そうして思いつく限りの望みチートを告げていき、神様はその全てに『よかろう』と返してくれた。

 本当にいいの?ってぐらいにチートを詰め込んだけど、神様は動揺する素振そぶりすら見せない。


 神様の器がでかすぎる件。


 とにかく、色んなパターンを考えて様々な望みチートを要望した結果、俺はチート・オブ・チートな能力チートを身に着けて異世界に行けることが決まった。

 どんな異世界だろうとイージーモード確定である。


「最後に『何でも創造できる能力』をお願いします」


『よかろう』


 もう思いつく望みチートがなくなったので、最後の仕上げとして異世界へ渡った先でもチートを後付けできるようにして万全の体制を整えた。


 たとえイージーモードだったとしても、どんな落とし穴があるか分かったもんじゃないからね。

 こうしてしておけば、その場その場でチートを創り出せるから、どんな状況だったとしても大丈夫。


 ふっふっふ、これで我がごろ寝の道を阻むものは無い!


『では異世界へと送るとしよう。汝が行く先に幸あらんことを……』


 ”最後”というキーワードがきっかけになったのだろうか、神様はそう言って俺を異世界へと送り出してくれる事となった。


 一瞬で視界が暗転し、真っ白な世界が真っ黒な世界へと塗り替わる。


 初めて体験する異世界への転送。


 俺はこの先に待つであろう異世界ごろ寝ライフに思いを馳せ、胸を躍らせるのだった。















 ……




 ……




 ……




 ……




 ……




 ……え~っと、異世界に着くまで、ま~だ時間かかりそうですか~??




 ……




 ……




 ……




 ……




 ……




 ふぁ~、なんか眠たくなってきちゃった。

 なんか転送中って無重力なのか、ふわふわと宙に浮かんでいるみたいで寝心地が良いんだよね。

 低反発マットレスどころか、無反発マットレスだ。


 転送が終わる気配は全然見えないし、ちょっとぐらいはいいよね?

 そんなわけで、おやすみなさい。



 ………………



 …………



 ……



 ……ぐぅ。

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