第3話 主神フェンリィズと異世界小説

「貴方は貴方の世界での広義の『神』……さっき説明した通り、超おおざっぱにいえば狭義の『神』の使いね? その神と私の手違い的なというか、まだ生きるはずだったのに、ちょっと……そう、本当、手違い的なもので、事故的っぽく死んでしまったの」


 奥歯に物が挟まったような言い方だが、これは……。


「それだったら私は本来ならあと何年間生きる事ができるはずだったのだ?」


 と尋ねると、リィズはさすがに言い淀んだ。


「……12年間よ、最後はピッケルで頭をガツン! って叩かれて殺される感じね」と答えた。


「だいたい私自身の事を思い出してきたが、やはり殺される運命にあったのか。私には家族がいるし、国内や国外に、これでも私は無縁な存在ではなかった。しかし、人ひとりが消えても歴史は変わるが、それではだいぶ歴史が変わったのではないか?」


「確かに12年も早く貴方がいなくなった歴史はだいぶ『神』など『外』からの手が入らないで進むはずだった歴史から大きく変わって分岐が起きたわ」と気まずそうな顔をする。


「もちろん、貴方が私たちに呼び出され……えっと、命を、奪わせられちゃったのが、無かった世界もあるの。というより、そっちが『本流』だから、全体としては、それほど影響は大きくなかったのだけど……」


 と、リィズはもごもごと言うと、こう、「私、営業スマイルしてます」と顔に書いてあるような笑顔を浮かべ、人差し指を立てて言った。


「確かに貴方はもうあの世界には戻れないけど、代わりにうちの世界に来なさい! なら因子が影響し合う事もないし。まあ今回は特別に! すごくお得なおまけをいろいろつけてあげてもいいわよ?」とウィンクして無い胸を張り、おいでおいでしてくる。


「よくわからないがまとめよう。君の友人という、ずっと光の中で隠れたまま出てこない我々の地球関連を司る、広義の『神』と主張するところの失礼な存在は、何故出てこないのだ?」


 そう尋ねるとリィズは気まずそうな顔をして、違う方向を軽く睨むようにして答えた。


「この世界では、狭義の『神』は当然として、広義の『神』も姿を見せちゃいけないのよ。見せたら偶像崇拝をあなたたち人間はするでしょ? それにこの世界では『神』が干渉することは禁じられてるの」


「なるほど、それでは何故、君は姿を現しているんだ? 私が転生するというところのその世界の『神』である君を知ってしまった訳だが」


 リィズは少し怒ったような顔をして叫んだ。


「貴方ねぇ! 貴方が信じないからでしょ?! それに私の世界では、『神』と人間は、貴方の世界より、かなりお互い身近な存在なのよ。偶像崇拝を禁止するどころか、私たちの像を造った者に祝福を与える『神』も普通にいるからね」


 私は納得したような納得できないような気持ちで、まずはまとめることにした。


「そもそも、狭義の『神』はもちろん、広義の『神』もこの世界への干渉を禁止されているのだろう?」


 そう言うと「うん」と頷く。


「なのに何故、私は死ぬ事となり、そしてこの場に連れてこられたのだ?」


 そういうとリィズは目をそらして、さらに気まずいように言った。


「その……最近、ちょっと、貴方の世界の、ある種の、書物や映像にハマっていて……」


「………その『ある種の』書物と映像……とやらとは?」


「こう…………平凡な主人公がある日突然トラックに轢かれて異世界に転生するみたいな? い、意外と私たち『神』の間では人気が有るのよ?!」


 ……私は言語としては確かに文法的に成り立ってるのに、その意味がどうしても分からないので、尋ねた。


「……何故トラックに轢かれると異世界に転生するのだ? 因果関係がまったく分からないのだが」


 そうあまりにも不可解なので尋ねると、またさらに気まずそうにリィズは答えた。


「それは、ほら、手違いとか間違いで神様が死なせちゃったから、お詫びに転生させてあげるとか? 勇者として魔法で呼ばれるとか? こう……『異世界モノ』の、お約束的な?」


 ぎこちない笑顔で答えるリィズにさらに問うてみる。


「……この場合は手違いとか間違いの場合かね? それに君たちはこの世界の場合は干渉を禁じられているのだろう?」


 するとリィズは言い訳するように人差し指を立ててごまかすように笑って言った。


「その……他の世界の『神』である私はグレーゾーンでひっかからないみたいに? そう、ひっかからないはず、って貴方の世界の『神』に『私たちも試しにやってみない?』って誘って、ちょっとこう……転生させてあげる幸運な人を、条件に該当する、人類史上に存在した人達から1人、ダーツで無作為に選んで……ね?」


 私はいい加減頭が痛くなってきたので尋ねた。


「まとめよう。君ら広義の『神』が干渉してはいけないはずの地球のある世界なのに、君達のような者達が愛好している『異世界モノ』とやらの……説明を受けたはずなのに未だに理解できないが、それを再現したいと思った、と」


 そういうとリィズは「……うん」と気まずそうに答えた。


「そして、グレーゾーンで違反に当たらない君が、ダーツで人類史上存在した全ての人間から一人を選んだら、私だった、と」


 そうまとめると「そ、そうそう……お約束の展開よね……?」と今度は少しうつむいて頷く。


「……いずれにしろ誰を対象にしてもどう考えても殺人に変わらないだろう。人は人を殺したら殺人の罪だが、広義の『神』とやらは人を殺しても無罪なのか? だとしたらとんでもない勘違いした相応しくない力を持つ特権階級だが」


 と、私が少し強く語気を荒らげると、びくっとして縮こまるように答えた。


「……その……私の世界でチートいっぱいあげて転生させてあげるから、プラマイゼロだし望むのを何でもあげるつもりだったし、条件に『パーティーから追放されて殺される者』って入れたから、いいかなぁ喜ぶんじゃないかなぁと思って……」


「確かに私はパーティーから追放された身だが、だからといって殺人には変わらないだろう。君は実際死ぬ痛みを感じて親しい者と離別する苦しみを味わった事があるか?」


 睨みながらそういうと、「……ひぐっ!?」と声をあげ、何かをぼそぼそと言いかけているらしいので耳を澄ませて近づいてみて尋ねた。


「このことを、大幅に歴史を変えてしまった事を、狭義の『神』が知ったら許してくれるものなのかね?」と強く言うとリィズは眼をつむって文字通り頭を抱えた。


「それに12年間もの私の人生が失われた事をどう責任をとってくれるのかね?」


 と少し脅すように声を低くして言うと「わぁぁぁぁぁん!!!!」と爆発的な音量で泣き始めた。


「待て、待ってくれ、感情的になられても困る。分かった、冷静に話し合おう」


「ふぇぇえぇぇん!! ごめんなさい許して私たち……魔が差したのーー!!!!」


 泣き止まないリィズに多少、というよりかなり面を食らって「神に魔が差すものなのか?」と呆れてしまったが、泣き止ませるためにもこれからのためにも尋ねる事にした。


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