追放されし『異端者』、レオンの異世界革命奇譚

露月 ノボル

【序章】パーティー追放と異世界転生

第1話 「異端者」の追放

「悪いがお前は今日限りでこのから追放する」と、「」は言った。


 部屋を沈黙が支配した。その「」の言葉を、私はその意味をよく理解できず、「えっ?」と自分でも恥ずかしい事に間抜けな声を上げてしまった。


 その「彼」の後ろでは、昔から共に戦ってきた仲間だと思っていた、私と同じ古株でもある2人、グレゴリーとレフが、種明かしでもするかのように、さっきまでと態度をまったくコロッと変え、あざけるようにはやしたて笑っていた。


「はは、まだ気がついてねぇのか? ざまぁねぇなぁ、レオン? 前からお前の人を見下げるような態度で気に入らなかったが、ようやくお前の面を見ないで済むぜ」


「まったく大笑いだぜ! 『』にちょっと特別扱いされてたからって、偉そうにしやがって、前から目障りだったんだよ! まぐれの戦功で英雄面しやがって!」


 2人は本当に弱小の駆け出しの頃から共に戦ってきた仲間だったのに……「彼」の背の後ろで、汚い数々の言葉で私を罵り続けた。私は言葉を絞り出そうとしたが、あまりのショックで声を出す事すらできなかった。


 以前、「あのひと」がパーティーリーダーだった時に、深い傷を負い、もう余命が長くない事を悟り皆に宛てた遺言で、「最後に言う……『』にだけはパーティーを継がせるな……」と名指しされていた。


 だが、その「彼」が今、勝ち誇ったような顔で、にやりと笑って言った。


「レオン、お前が居なくても、パーティーを運営してくのは俺達3人がいれば十分なんだよ。わかるか? お前は『あのひと』がいなきゃ、単なる古株気取った邪魔者に過ぎなねぇんだ!」


 そう激しくつばを飛ばしながら言葉を叩き付けてくる。


「お前が、まだパーティーが小さかった頃の功績で、パーティーの主要メンバー面するのはもう終わりだ。これからは『』の時代だ」


 そう「彼」がせせら笑い、それに合わせたかのように、後ろのグレゴリーとレフが「彼」の横に並んで「してやったり」という嘲笑を浮かべる。つまり、彼ら古株の3人が、今後はパーティーを握るという宣言だ。


 それを聴いた途端、さらに後ろの方でコソコソとどっちに着くか相談していたらしい、他の中堅の4人も加わり声を上げ、3人に媚びを売るように、「古参面しやがって!」「『あのひと』の葬式にすら出なかった恩知らずめ!」「他のパーティーのヤツらともつるんでた裏切り者の癖に!」と口火を切って罵倒が始まった。


 その怒号と糾弾の熱い波で、他の同じく友に戦ってきた中堅の他の4人のメンバーもまた、「これから先のリーダーが誰か」が明らかになったからだろう、加熱し競争するかのように怒鳴り声をあげた。


 その空気を見て「これから」の勝敗が決したかと思ったのか、パーティーの残りのメンバーも、私の事を「無能野郎!」「裏切り者め!」「パーティーから出ていけ!」と口々にぶつけてくる。


 その周りの中で、「私」と以前から親しい仲間もいて、少数ながらも同情的な目で見ていて反対の声を上げたそうな顔を皆しているのだが、周囲の熱気が怖くてとても声を出せないようだった。


 唯一、「待ちなさい! 『あのひと』の最後の言葉を無視する気なの!?」と、「あのひと」が愛した残された紅一点の「彼女」……ナジェージダだけが場を正そうとした。


「こんなのってないわ! 『あのひと』の言葉をこんなに蔑ろにして、『彼』に都合のいいメンバーばかり集めて、こんな大事な事を決めるだなんて!」


 と怒号と戦うように声をあげてくれたが、その声も虚しく、もはや「私」は完全に追い詰められていた。


「ああ、マダム! ああ、『あのひと』は偉大だった! まだ弱小だった俺達のパーティーを、ここまで大きくして国でも一番のパーティーに育てたのは確かに『あのひと』のおかげだ!」


 と、『彼』は大げさな身振り手振りをし、彼女に対して小ばかにするようなオーバーリアクションで「あのひと」を讃えたあと、「だがな?」と続けた。


「だがな? 今いる沢山のメンバー達が選ぶ事を踏みにじるのが、『あのひと』の死んだあとの望みだったといえるのか? そうじゃない! 俺は本当は『あのひと』の遺言に従おうと思った!」


 と言葉を演技じみた敬意を表するようなしぐさをしながら切った。


「……が、パーティーの仲間たちがどうしてもお前が必要だ、と懇願されたから、パーティーを立て直すために、俺はあえて、『あのひと』の意志を継ぐ事にして立ち上がったんだ!」


 と、自己陶酔している顔で並べ立てると、他のメンバーから大きな拍手が巻き起こった。


 ナジェージダが必死に叫びながら訴えかけようとしても、怒号と万雷の拍手で声はかき消され、もはや勝敗は決してしまった。


 私は呆然としながら事態をただ成り行きを見守ってしまっていたが、「彼」が皆に鎮まるよう手で制するとぴたりと怒号と拍手は止まり、「彼」は言った。


「相変わらず察しの悪いようだが、お前の味方なんていないぞ? というより、居てもお前を追放した後に、ゆっくりと炙り出してぶっ殺してやる!!!!!!」


 と血走った目で言い、パーティーのメンバー全員を見渡すように睨んだ。誰も恐ろしく声が出ないのを見て気が済んだのか、声は落ち着いたが相変わらず小ばかにするような言い方で言った。


「ああ、パーティーの一員を示す証と、他のアイテムも置いていけよ? それは俺達パーティーの共有財産なんだからな」


 と、服についていたパーティーのメンバーである証をちぎり取られ奪われた。


「俺達は寛大だから住むとこ用意してやったから大人しくそこで隠居でもしていろ。……まァ、殺すには『』早いし周りがうるさいしな……」


 と、「彼」はすごく悔しそうに、憎々しげに呟くように言って、傍にいたパーティーでも下っ端の者へ、あごで示して言った。


「おい、そこのお前ら、こいつを連れていけ。例の場所へな?」


 下っ端である者たちが「わ、わかりました!」と緊張している声をあげ、「こっちだ、来い!」と私の腕をつかんで引っ張る。私はなすすべもなくかつての居場所だったパーティーの本拠地から罵倒と嘲りの声を後ろにひっぱり出されてしまった。


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 あまりのショックに、その後はあまり記憶があいまいだが、乱暴に引きずるように腕をつかまれ歩かされ、少し歩くのが遅いと蹴とばされ、その後、私が気を失ったらしく、その間に入れられたのか、私はガタゴトと走る中、振動に突き上げられて運ばれていた。


 それから到着するまで何日かかったか、ガタンガタンと荷物のように運ばれ、ショックから回復せず、今のこの扱いで私は本当にパーティーから追放されたのだ、という自分の身の上を実感した。あまりにショックがさらに深く、私は頭を手で抱えながら過去の思い出の中でふさぎ込んでしまった。


 何日経っただろうか、ドン! ドン! と扉が叩かれた音にびくっと顔を上げると、扉が開かれた刹那、乱暴に数人がかりで無理やり外へと引きずり出された。昼前の日差しの下、到着したのは確かに天気の良く風の清々しい、ただ寂れた感じがする町だった。


 私をここまで連れてきた男達は、どん、と町の道路へと私を突き飛ばし、私が転がるように地に倒れると、その男はニヤリと笑い言った。


「ようこそ、へ」




 私は連れていかれ、決して立派とはいえない家に一人、あとから連れて来られるらしい家族の到着を待ち、ぽつんと目を閉じて何が悪かったのかと考えた。


 外では逃げ出さないようにご丁寧に見張りもいるらしく、私はこのような地の果てでは、逃げるもなにもできないのに、と思った。


と言っていたのだから、もっと「」に対し強く反対すべきだったのではないか。


 元々「彼」は、強盗までやってた前科があり、荒くれもの達には人気があり、新人をどんどんとスカウトしてきたり、「彼」の増長が危険な事だったのは明らかだったはずだったのに。


 あの場に私の親しい友人……味方も数人はいたが、味方してくれなかったなどと責める事はできない。あんな殺伐として「彼」のいう通りしない者は、何をされるか分からない空気の中で反対の声を上げられるのは「あのひと」の愛した「彼女」だけだっただろう。


 結局、「」の最期の言葉さえ、「彼」は結局押し切って黙殺させてしまった。


 の異変には気が付いていた。だが、今考えると乾いた声で笑ってしまうしかないが、「正義は最期に勝つはずだ」と思い、皆に訴えかければ、パーティーが堕落しているのを正す事ができると思っていた。


 私はそう考えながら、一人家の中でただただぼーっと立っていた。


 「彼」が言っていたように、私はパーティーの交渉事などもやっていたので国内外にそれなりに顔が広く、それこそが「彼」が私の事を生かしている理由だ。


 それはそうだろう。一応は私はパーティーで、「あのひと」を継いでパーティーリーダーになるはずだ、とパーティー内外に思われていた立場だった。


 それがひっくり返され、思いもよらなかった粗暴で有名な「彼」と、あと恐らくは「彼」を御すなどし得ないであろう腰巾着のようなグレゴリーとレフ2人が共同でリーダーとなった。恐らくは……御せず2人は悲惨な末路を辿るだろう。


 こう隠居させて放置しておいて、ほとぼりが冷めた頃、私がパーティーメンバーにいない事が気にもされなくなったその時こそ、「彼」は私の喉を剣でかき切らせるだろう。


 つまり私の死は定められている。生ける屍のようだが、私にだって矜持はある。


 しかし、こんな辺境の地まで飛ばされてはどうしようもできない。恐らく見張りを立てられた生活になるだろう。大人しくしていればしばらくは「まだ」大丈夫のはずだ。


 どちらにせよ、そう、これからの生活を成り立たせるために部屋を掃除や補修をしなければならない。


 私は、ほこりっぽい長年人が住んでいなかったらしい家を、少しは掃除せねばと動こうと思った矢先、キキキーッっと耳障りな機械らしき金属の擦れるような不快な音がドアの外から聞こえた。


 何だろうかと、思わず振り返った瞬間、ドアを突き破って、黒い鉄のかたまりが家へ突っ込んできて私を物凄い衝撃で突き飛ばした。


 ズタ袋のように弾みながら飛ばされ転がってく私は、最後に、何故こんな田舎町に、と思いながら、意識を失った。




<以下前書きです>


※実は史実の場合は本当に色々な経緯があったので、と実際と全然違う形になります、時系列的にめちゃくちゃで、そもそもトロイカはパーティー追放までにとっくに崩れてるのですが、追放までの細かいのを書くと数年分の歴史になるので、お話を1話にまとめて、あくまでフィクション、架空の物語として、ドラマとして書かせて頂いています。

 ですので、史実に関してはこれは物語なのでアイザック・ドイッチャーの3部作などちゃんとした本での内容をお薦めさせて頂きます。


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<はじめまして>


 今現在、だいぶ先までお話を書かせて頂いているのですが、かなりテンポの遅い作品で、かつ内容的に好きと嫌いが大きく別れる内容かもしれません、ですが、もし楽しんで頂けましたら幸いです!


 毎日更新を頑張りますので、どうか作品のフォローをよろしければお願いできましたら、とても嬉しく思います。

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