第8話 「男気を見せるアルティメットニート」(勿論敵がボロボロになってからw)


 魔王は意外にも正々堂々と村の外れの丘で俺を待っていた。

 周囲には万を越えるモンスター達がひしめいていて、流石にビビる。

 ていうかいきなりラスボス出て来たんですけどwまだ俺異世界来て一ヶ月だよ?


「お前がケインか……そこの火の大精霊サラマンダーを我に寄越せ」


 我www現実でそれが一人称の奴って何か笑えるなぁ。

 そんな事よりも、敵さんが総力上げてこんな所まで来るなんて……ミィ子ってもしかしてとんでも無い存在なのかな?


「うるさい! 私はお前みたいな奴の言う事なんて聞かないもんねぇ!」


 赤い舌を出すミィ子。俺も魔王に首を振って見せる。

 仲間を見捨てるなんてありえない。


「ほう」


 魔王がギンと俺を睨む。そのプレッシャーに空気が震える。俺の後ろについてきたSランクの冒険者達が、バタバタと泡を吹いて倒れていった。


 余りの気迫にビビったエリーちゃんが、俺の背後に隠れた。


「で、でもケイン。流石にこの数の敵はヤバいと思うけど……」

「たしかにな」


 ちょっと苦戦するかもしれない……レベル上げしてないし。


「それが最後の言葉か?」


 低い声で魔王はそう俺に問い掛けた。少し汗をかいた俺は、勇気を振り絞って首を縦に振る。


「残念だ」


 すると魔王の背後に居た万のクリーチャー達が、一斉に駆け出して来た。余りの数に地が震えている。


 エリーちゃんが俺に聞く。


「どうするのケイン!?」

「うん……今、ここで強くなる!」

「ふえ??!」


 俺は掌を前方に向ける。そして隙間が無い程のモンスターの群れに向けて――


「ヒートLv1!」



 ――ズガァァアアァァァァアン!!!



 直線上の敵が一気に消し炭になった事で、魔王も流石に表情らしいものを見せ始める。


「敵はまだまだいるよケイン! 今強くなるってどうやって……え!?」


 振り返ったエリーちゃんが驚きの顔を見せる。俺はステータスを確認し、ニヤリと笑ってみせた。


「今のでLv70!」

「え、え、まさか今から強くなるって……!」

「そうさ! 今ここで経験値稼ぎをする!」

「やれーご主人!」


 ラスボス戦の最中で、俺はレベル上げをする! 敵が固まっていればいる程効率が良い!


「もう一回! ヒートLv1!!」


「「「ぐぎゃぁぁあ!!!」」」


 数え切れない程のモンスターを一気に葬る!


「Lv86!!」


 もう一度!


「Lv100!!」


 モンスター達の悲鳴に、魔王が顔を引つらせた。


「もう一度! ヒートLv1!!」


 掌から放つ火の波動砲!

 しかし今度はそれを、前に飛び込んで来ていた魔王に消し去られていた。


「いい加減にしろ、ヒューマン如きが!」


 魔王の前に巨大な闇の球が現れて、俺の炎を消し去っていた。

 エリーちゃんは目を白黒とさせている。


「ケインのヒートが効いてない!?」


 これには俺も驚く。

 マジか、なんだあのブラックホールみたいなの……


「ご主人!」

「ミィ子!?」

「火! 早く!」

「は?」


 ミィ子は大きく開いた自分の口を指し示す。

 そうこうしている内に、もう目前に魔物の軍勢が押し寄せて来ていた。


「火! ご主人!」

「え……あ、ああ、そうか!!」


 ピンときた俺は全力の魔力を注いだヒートLv1をミィ子の口に向ける。


「ヒート!! Lvッ1ッ――!!」

「おボボボ」


 溺れる様な声を出すミィ子の口に、俺は遠慮なくカンスト魔力の炎を放出する。


「ハァハァ……! もういいかミィ子」

「っっハァァ美味しかったーー!!」


 お腹をパンパンに膨らませたミィ子が、ゲップをする。

 ねぇちょっとミィ子さん……お腹撫でてる場合じゃなくて! もう、もう目の前にモンスターの群れがぁあぁあ!!!


「ミィ子おおお!!!」

「分かってるってぇ。えーい」


 全身を炎に包まれて、ミィ子の体が発光しながら空に浮かんだ。そしてそのまま何処までも巨大になっていく。


「何をする気だ!」


 魔王だけは、次に起こる惨劇をいち早く察知したようである。


 ――――だが、もう遅い!!


「やれ! ミィ子!!」


 光から巨大な火竜が現れて吠える。


「がァァァァァ!!」


 全てのモンスターが、生命体の頂点である竜の登場に一瞬足をすくませた。

 そして俺は、今は喋れないミィ子の変わりに叫んだ。


「人類未踏の領域! 火の魔術は次の領域へと飛ぶ!」


 全ての者が、頭上で口に炎を蓄え始めたミィ子に刮目かつもくする。


「デスヒートッ―ッ!!」

「グォオオオオオ!!」


 ミィ子の絶叫と共に、ヒートガの次の領域のオリジナル魔法、デスヒートが降り注いだ。


 

 ――ズォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!



 魔物が降り注ぐ炎に焼かれていく中で、魔王はうろたえる。


「なんだっ!? その魔術は! 魔力量は!?」


 全ての民が、万のモンスターを一撃で焼き払った最強のオリジナル魔法に呆然とする。

 広範囲過ぎるその炎は、そこに居た全ての生命体を葬り去ったのだ。


 ――いや、一人生きている!


「おのれ……ケイン……貴様何者だ!」


 魔王だ。

 しかし体中傷だらけになって、血反吐を吐きながらフラフラとしている。


「ヒューマンの……いや、この世界の生命体に許される魔力じゃ……」


 冒険者達が、ボロボロになった魔王に一斉に切りかかろうとする。


「待て!」

「どうした、なんで止めるんだケイン!」

「魔王は俺がやる……」


 最後は男同士、一対一で決着をつける。

 それが正々堂々と俺に挑んで来た男への礼儀というものだろう。

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