第14話 SS ガイの一日




 そのうちA級に上がるんじゃないか?

 ガイがそう言われるようになったのは、つい最近のことだった。

 コツコツと依頼をこなし、ようやくA級が見えてきた。

 A級に上がれば、大抵の冒険者ギルド支部で主力として扱われる。受けられる依頼も増えるし、ギルド側から依頼が回ってくることもある。

 魔法も使えず、剣術一本。しかも特定の誰かとパーティーは組まないソロ。

 早いほうだ。帝都を拠点にしているなら、なおさら。

 帝都の周辺に高ランクのモンスターが出ることは少ない。その少ないモンスターもシルバーという規格外が片付けてしまう。大きな手柄は望めないのだ。

 だから帝都のB級冒険者たちはコツコツと依頼をこなす必要がある。

 それはA級が近いガイとて同じこと。


「ほら、もう落とすなよ?」

「うん! ありがとう、冒険者のお兄ちゃん!!」


 比較的裕福な家の娘。

 その娘に熊のぬいぐるみを渡して、ガイは一息つく。

 最近、帝都で流行りの熊のぬいぐるみだ。クリスタ皇女が持っている熊のぬいぐるみに似せて作られており、子供には大人気。

 仕掛け人は亜人商会。

 そのおかげで、娘が落としたそのぬいぐるみを探すのは一苦労だった。

 しかし、何とか見つけて返すことができた。


「まず一つ、と」


 複数の依頼を受けることは、帝都内ならよくあることだ。

 いちいち支部に戻ると手間だからだ。

 依頼完了は後日、依頼主がギルドに報告するか、依頼主から証になるモノをもらえばいい。

 今回、ガイは後日、依頼主がギルドに報告するため、即座に次の依頼にとりかかった。

 次の依頼は酒場にたまっているごろつきの排除。

 最近、ごろつきどもがたまっていて、困っている酒場の店主からの依頼だ。

 ごろつき程度なら何人いようとかまわない。

 そう思って酒場に入ったガイだったが。


「あれ、まぁ……」

「あん? なんだ? てめぇは?」

「ここは俺たちの貸し切りだ! 出てけ!」


 酒場には二十人ほどのごろつきがいた。

 事前情報では十人程度だったはず。

 やられた、とガイはため息を吐く。

 依頼料を少なくするために、情報を操作することはよくある。

 二十人のごろつきを相手にするとなると、冒険者も数をそろえる必要がある。そうなれば依頼料もかさむ。


「まったく……まぁいい。俺だから許そう」

「なんだ? 早く出て行けよ!」


 ため息を吐きながら、ガイは近づいてきた一人の顎を殴り、一撃で気絶させる。


「冒険者ギルドの者だ。さっさと立ち退くか、それとも俺にボコボコにされて立ち退くか。どっちか選べ」

「冒険者だぁ? ふざけんなよ!? やっちまえ!!」


 合図とともに十数人が襲い掛かってくる。

 ガイはそれに対して、剣を抜かずすべて徒手空拳で捌いていく。

 もちろん、すべては捌ききれない。何発か殴られたし、刃物で切り傷も負った。

 しかし、毎日のように依頼をこなしているガイだ。ごろつきが束になったところで、相手にはならない。


「ふうぅ……やっと終わったか……」


 肩で息をしながら、ガイは膝の上に手をついた。

 周りには寝転がっているごろつきども。

 遠巻きからそれを見ていた酒場の主がよってくる。


「さ、さすが冒険者! やるじゃないか!」

「礼はいい。さっさとこいつらを通報しろ。数を小さく言ったことは黙っておいてやるが、次はないぞ?」

「えっ、あっ……な、なんのことだ?」

「とぼけるなら報告するまでだ。こいつらが戻ってきたとき、冒険者ギルドはお前の依頼を受けないぞ?」

「そ、それは困る! 悪かった! 金をできるだけ払いたくなかったんだ! こいつらのせいで、最近、商売にならなくて!」

「だったら最初から認めろ! 早く通報しろ。あと、ギルドには自分から報告しとけよ。俺は疲れた、帰る」


 ガイはそう言って歩き出す。

 こうやって生傷の絶えない日々が続く。

 空いている日には子供たちに剣術指南。


「今月も厳しいなぁ……」


 財布を開くが、あまり入っていない。

 報酬がすぐにもらえる依頼もあれば、そうじゃない依頼もある。

 子供たちにご飯を食べさせたりしているため、ガイはいつも金欠だ。

 お腹は減ったが、今日は我慢と言い聞かせてガイは帰路につく。

 しかし、家の前につくといい匂いがしてきた。

 肉串の匂いだ。


「おっ、帰ってきたか。良いタイミングだったな」

「アル? どうした? こんなところで」

「ちょっと城の外に出たくてな。熱々の肉串と、いくつか飲み物を買ってきた。話に付き合え」

「ったく、お前は……」


 皇子であるアルはいくらでも金を持っている。

 けれど、ガイには金を渡すようなことはしない。

 ガイが嫌がることを知っているし、ガイの金欠はガイ自身で解決できるような問題だからだ。

 どうしようもなくなれば手を貸すが、そうでないなら手を貸したりはしない。

 ただ、たまにこうやって食べ物を買ってきてお喋りに来る。食べ物はアル持ちだが、場所はガイの家。お互いにメリットがある。


「ちょうど腹が減ってたんだ。上がれよ」

「悪いな」


 アルから肉串を受け取り、ガイは豪快に頬張る。

 依頼の後に友と食べるそれは格別の味だった。






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