第15話 彼女との日々(10)


 遊園地に入園して、十分。

 ジェットコースターの受付前には、数十人がすでに並んでいた。


「順番待ち。三十分は掛かるみたい」

 最後尾付近にいる係員が掲げるボードを見て、雅人は告げる。

「なら、待ちましょ」

 どうしてか詩織は身を雅人に寄せていた。


 歩く度、触れる互いの肩。

 客観的に見て、僕らは本当の恋人の様だった。

 出来ればそうであって欲しいと、雅人は願う。


「詩織は待つのは嫌い?」

「待つ――そうかも」

 詩織は気がついた顔をする。

「え」

 待つとは言ったが、待つのが嫌い。

 ならば、この時は彼女にとって嫌いな時なのだ。

「いや――そうだった、かも」

 考え込む様に首を傾げる。

「そうだった?」

 だったとは、過去形。

 今は違うと言うことなのか。

「今は待つのは苦じゃないわ。――なぜかしら」

「何でだろうね……」

 少なくとも君自身の中で何かが変わったと言うことだろう。 


「きつかった……」

 乗り終わった雅人は出口で大きく息を吐いた。

「中々凄かった……」

 疲れ切った顔で俯く雅人の隣で詩織は晴れた顔をしている。

「詩織、大丈夫だったの?」

 僕はもう最初の下りカーブでぐったりだったけど。

「うん。案外、平気みたい」

 詩織はケロッとした顔で頷いた。

「……凄いね」

 印象とは大きく異なる。

 そもそも、今までの彼女は遊園地には行かない様な人だけど。

「さあ、次ね」

 笑顔でそう言うと、詩織は雅人の右手を掴み、前へと進んで行く。

「あ、待ってー」

 ゆっくり歩きたい。

 歩く度、酔いが脳内に駆け巡った。


 目の前には、僕の手を引く笑顔の詩織。


 さっきまでの酔いが嘘の様に覚めていった。


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