嘘か嘘じゃないか分からない嘘をつくのはやめてください~エイプリルフールだからって容易に嘘はつくもんじゃない〜

絶対人生負け組

前編〜生意気な幼馴染の後輩〜

「先輩っ? どうしたんですかー? そんなにキモイ顔して」


「おいおい。先輩に向かってそんなこと言うか普通」


 春休み、部活が終わって昼の12時を回る前。


「あ、もしかしてエッチな事でも考えてました? 先輩いやらしぃー! だからモテないんですよ?」


 俺、長谷川緋露は一つ下の幼馴染の花川詩音と一緒に帰っていた。


「勝手に決めつけないでくれるかな?! 詩音といると楽しいなって思ってただけだぞ!」



 こうも生意気な後輩が、他にいるだろうか? まぁ、後輩って言っても幼馴染なんだが……。



 春の風で詩音の髪がサラサラと揺れる。部活着のラフな格好。



 こいつ、わざとなのか……?



 部活着のサイズが少し大きいのか胸元ががら空きだ。



 詩音よりも身長が高い俺は当然詩音の服の隙間から胸元が見えるのだが……。



 詩音も大きくなったなぁ……ナニとは言わないが……。



 あまりジロジロ見てるとからかわれそうだと思った俺は、視線を逸らして詩音に適当な話題を振る。



「ていうか、詩音。なんで先輩呼びだよ」


「えー? 緋露先輩の性癖に刺さるかなって」


「っぐ……何故それを……」


 詩音は少し小走りで俺の前に行き、後ろで手を組んで可愛く微笑んで言う。


「幼馴染なんだから、知ってるの当たり前じゃん!」


 おいおい、そんなに前傾姿勢だとめっちゃ胸見えるんですけどっ?!


 俺はなるべくそれを見ないように視線を逸らして、頬をかく。


 幼馴染と可愛らしい笑顔で言われたこと、豊富な胸をみてこっちが恥ずかしくなってしまった。


「緋露先輩ー? 顔赤いよ?」


「あ、あぁ。暑いだけだよ。もう春だし」


 顔が赤いと指摘されて急いで取り繕うが、何やら詩音がニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。


「緋露先輩? 別に誤魔化さなくてもいいんですよ? さっきから、私の胸ばっかり見てますよねー?」


「はっ?! 断じて違う!」


「別に、緋露先輩になら見せてあげてもいいんですけどねぇ」


 そう言って詩音は、服をつまんでパタパタと胸元をチラつかせる。


 なに、緋露先輩にならって。ならって。





 俺が思わず詩音の仕草に見惚れていると詩音がより一層邪悪な笑みを浮かべた。


「あれ? もしかして、先輩。本当に見せて貰えると思ったんですか?」


「今日何の日か知ってます?」と詩音がニヤニヤと小悪魔的な笑顔を向けながら訊いてきた。


 今日は、なんの日……? 今日は4月1日…………。



「あぁ、そっかエイプリルフール……」



 嘘をついてもいい日だぁっ!!

 くそっ! 嘘だったのか!


 い、いや別に見たくも無かっですしー? 反応に困ってただけだしー!



「まったく、先輩は変態さんですね」



 酷いいわれようだな! 俺も、ちゃんとした思春期男子! 多感な時期だからしょうがないだろう。



 ちょっと、俺も嘘付いてみるかね……。




『可愛いね』か?『好きだよ』か? いや、それ両方とも本心だ……。

 嘘じゃねぇ……。





 いつも通っている道を、詩音とゆっくり帰りながら考えるがまったく思いつかない。いや、でも一つだけ浮かんだ。



 詩音が傷付くかもしれないが、ちょっと今日はいじられすぎてカチンと来てたから丁度いい。




「なぁ、詩音。もう疲れたわ。お前と一緒にいるの」




 俺がそう口にすると、詩音は「えっ?!」と驚いた声を出す。



 あれ、ちょっとやり過ぎたか?



 詩音は、明らかにテンションが下がっていたがスマホを一瞬みてバッと勢いよく顔を上げる。

 その詩音の顔は、ほんのり赤く染っているようにも見えた。



 が、それは今はどうでもいい。詩音。何故笑っているのだ。



 詩音は、俺をからかう時にするニヤニヤ顔を浮かべていた。



「ねぇ。緋露先輩? エイプリルフールのルールっ知ってる?」



 エイプリルフールのルール? エイプリルフールにルールなんて存在するのか……?




 俺が疑問に思って首を傾げると詩音は俺に1歩近ずいてきてスマホの画面を見せてきた。



 そこには、こう書いてあった。



『嘘は午前中だけ。嘘は正午までと決められている。午後に嘘をつくと愚か者と言われてしまうとか……』



「え? まじ? てか、それ今調べたの?」


「……っ〜〜〜うっさい! そんな事はどうでもいいの!」


 あ、後輩キャラが崩れた。可愛い……。


「ルールに則ると、先輩は愚か者ですね!」


「え? いやいや、それが嘘って根拠がないじゃん」


「いやいや、ありますよ。証拠。緋露先輩が自分で言ってた事ですし」



 詩音はそう言ってネットを閉じ、マイクのアイコンのアプリを開いて何かの再生ボタンを押した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る