その39。教室、2人きり。(改)

「———此処が俺の教室か……」


 クラス表を見終わり、主人公アリアのドン引きな光景を目の当たりにした俺は、シンシア様に急いでクラスに行く事を提案した。


 理由は勿論……アリアとレオンハルトとの関わりをシンシア様に見せないためである。

 正直今のシンシア様がレオンハルトがアリアを見ていて不快に思うかは全く分からないが……備えておくに越したことはないだろうとの判断だ。


 そうしてシンシア様を地図を見てエスコートしながら学園内を歩くこと数分。

 他の教室とは明らかに一線を画す荘厳な見た目の教室に辿り着いた。

 1年S組とも書いてあるので間違いないだろう。


「ふーん、私とセーヤが学ぶ場所としては案外悪くないわね」

「私にとっては身に余り過ぎる場所ですね」


 だって俺、家族と言っても子爵だし。

 子爵って真面目で違法なことしてなかったら意外と金持ち少ないんだよね。

 我が家は裕福な方だったけど、伯爵家などと比べると遥かに見劣りする。


「相変わらずセーヤは平民みたいな事を言うのね。良い加減そろそろ慣れなさい」

「……承知いたしました」


 ———と返事をするのは良いが、前世からの庶民感覚が抜けないんだよな。

 こればっかりは時間を掛けて慣れるしかないわけだし。


「それでは———どうぞ」

「ええ、ありがとう」


 俺はそっと扉のドアノブに手を掛けて開けた。

 西洋に似た文明だからか、学園の扉はどれも引き扉又は押し扉なのは少し慣れない。

 勿論中に敵意のある者が居ないのは確認済みである。


 シンシア様が教室に入った後で俺も続いて入ると……。


「———誰も居ないわね」

「———誰も居ないですね」


 どうやら俺達が早く来すぎたらしく教室の中に誰も居なかった。

 まあ殆どの生徒は学園の中の様々な所を見てから来るらしいし、集合時間まで後2時間程あるので当たり前と言えば当たり前なのだが。


「申し訳ありま———むぐっ」

「セーヤ……2人の時は?」


 俺の口を手で塞いで、ニヤリと悪戯っぽく笑うシンシア様。

 そんなシンシア様の表情を見て、俺は自分の顔が引き攣るのを感じた。


「し、シンシア様、先程も申し上げましたが此処は学園———」

「セーヤ、命令よ———普通に話しなさい。それに周りには誰にも居ないわよ?」


 くっ……俺が命令に逆らえないのを良いことに好き勝手言って……!


 しかし、確かに周りに誰も居ないのも事実であり、普通に話す時の条件の2と言う条件も達成しているのもまた事実。

 つまり……俺に命令に逆らう大義名分がないのである。


「はぁ……分かったよ……」

「そうよ、それで良いの」


 俺が諦めた様に違和感しかないタメ口に変えると、シンシア様が上機嫌そうに近くの机の上に座った。

 この教室は大学の講義室の様になっており、教師が立って授業をする場所と黒板を中心に、少し弧を描く様に1つの長い机が段上に幾つも設置されている。


「シンシア様、机に乗るのはアウトでは?」

「良いのよ、誰も居ないから。それにバレなきゃ犯罪じゃないのよ?」

「何処から聞いて来たのそんな言葉!?」

「フレイアよ」

「よし、後で必ず絞める」


 あのバカ……何て言葉を貴族令嬢に教えてんだよ……!!

 

「因みに……他にどんなことを聞きましたか?」

「他には……そうね……確か『働いたら負け』とか聞いたわね」

「何でそんな言葉をドラゴンが知ってんだよ」


 その言葉は完全に俺の元の世界のニートか誰かが言った言葉だろ。

 ヤバい……シンシア様にフレイアを近付けたのは禁忌だったのかもしれない。



 ———アイツは絶対にしばき倒す。


 

 例え何回か殺されても絶対にしばき倒す。

 あんなニートみたいなことは言わない奴だと思ってたのに裏切られた感じするから更に許せない。



「———ねぇ、セーヤ」



 ふと、シンシア様が俺の名前を呼ぶ。

 ただ、その声色が普段と違っていて、視線は俺ではなく教室の窓から見える綺麗な快晴を……何処か寂しげにも懐かしげにも見える何とも言えぬ表情で眺めていた。


「どうしたのですか?」

「また敬語……」

「もうこっち敬語の方がシンシア様には接しやすいんです」

「……なら好きにして良いわよ……」

「ありがとうございます」


 そこで会話が途切れる。

 普段はシンシア様が頻りに話し掛けて来るので会話が途切れることは滅多にないし、もし途切れても気不味くはないのだが……今は物凄く気不味い。

 シンシア様の表情を見ても何を考えているのかイマイチよく分からなかった。

 

 俺がこの異様な雰囲気に困惑していると、シンシア様がいきなり俺の方を向いて尋ねて来た。



「…………セーヤは———これからも私の手を引いてくれる?」



 …………どう言う事だ?


 俺は突然のシンシア様の言葉に更に混乱を極める。

 『手を引いてくれる』がまずどう言う意味なのかがさっぱり分からない。

 仮にこれが、今後も執事として仕えてくれるか、と言うことならば……。


「———勿論です。今更シンシア様を見捨てるわけないじゃないですか」


 だってシンシア様から離れたら俺、死ぬらしいからな。

 あのクソ女神の言うことが信じれるかと言われれば微妙だが。


 俺がそう断言すると———シンシア様は予想外だったのか少し目を見開いた後……ふっと表情を緩め、優しく微笑んだ。



「そう…………なら、これからも宜しく頼むわよ、セーヤ」

「お任せ下さい、シンシア様」




 ———これが後に大波乱を巻き起こすことになるとは、この時の俺は欠片も思っていなかった。

 

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 新作上げたんですけど……見てくれると嬉しいです。


『厨二病は魔眼で無双したい!〜厨二病が魔眼名家の殺されるキャラに転生して【模倣】の魔眼を手に入れる〜』

https://kakuyomu.jp/works/16817330667351895538

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