その34。「王子が思ったより雑魚い」

「…………帰りたい……」

「うっ……す、すいません……まさかレオンハルト様あんなことを言うとは思っておらず……」


 顔を真っ青にして穴が空きそうなほどにキリキリと痛む胃を抑えながら歩く俺に、ナタリー様が申し訳なさそうに頭を下げる。

 いつもなら「いえ、ナタリー様のせいではないですよ」とでもフォローしていただろうが、今回ばかりはそんな余裕すらなかった。


 やべぇよ……王族と戦うとか全く考えてなかったんですけどぉぉぉ!?

 しかもあのクソ王子って一応主人公の攻略キャラなんだよね。

 アイツに嫌われたら間違いなくシンシア様と俺の命が危ないんだけど。


「……まぁなるようになるか!」


 もしもの時はフレイアに守って貰らいながら、公爵家一行と『禁忌樹海』に逃げ込めばいい。

 禁忌樹海のボスはフレイアとレベル上げた俺がいれば何とかなるはずだ。

 

 俺は前途多難だな……と肩を落としながら会場へと向かった。







 会場———王立魔法学院の大講堂にて。


『これより筆記試験を開始する! 時間は90分! それでは始め!!』


 俺達は最初に筆記試験を受けていた。

 まぁ言っても高校入学レベルの数学問題と、魔法の基礎、この学園の歴史の3つしかないので、少し勉強すれば十分合格圏内には入れる。

 

 ———90分後。


『———そこまで! これ以降はカンニングとして失格とする!』


 そんな教師の言葉で全ての生徒が一斉に筆を置く。

 この学院に受ける生徒は誰も地方の天才達のため、カンニングの様な低レベルなことはしない。


「どうでしたか、セーヤ?」

「80%は取れていると思います。シンシア様如何でしたか?」

「バッチリよ」


 ドヤ顔で親指を立てるシンシア様。

 何ヶ月も前から勉強していたのでよほど嬉しいのだろうが、こう言った外でやるのはやめて欲しい。

 誰かに見られないか心配でならない。


「では中庭に向かいましょう。此方です」

「ありがとうセーヤ」


 俺はシンシア様をエスコートしながら外へ出た。








 中庭は、前世の学校とは比べ物にならないほどデカかった。

 しかし現在、そんな広大な中庭には受験生が埋め尽くさんとばかりに並んでいる。

 そして俺達が来た時には既に始まっており、至る所で魔力反応と爆発音が聞こえてくるが、どれも音が小さい。


「シンシア様は何番なのですか?」

「1023番です」

「なら私と同じなので、此方です」


 俺は1022番。

 まぁ受付をした時間が全く同じなので似たり寄ったりなのは間違いないが。

 そしてそれはレオンハルト殿下も同じなわけで……。


「遅かったな。淑女なら俺より先に来ていないと行けないと思うが?」

「……申し訳ありませんレオンハルト様」

「ふっ、そんな体たらくではお前の執事は解雇一直線だな。おっ、俺の番がきたな。精々驚いて腰を抜かすなよ」


 王子は俺達を見下す様に笑い、教師の下に歩いていく。

 やはり王子のため見物客も多く、在校生の殆どが王子を見ていると言っても過言ではない。

 かく言う俺も王子の力がどれほどなのか興味があるので見ているが。


「レオンハルト王子殿下の属性は……4属性ですか! さすが王族ですね……1000人に1人とされる4属性持ちとは……。では始めに火魔法から宜しくお願いします」

「分かった」


 レオンハルト王子殿下がチラッと俺を見る。

 その瞳の中には俺を見下す色がありありと浮かんでいたが、俺は特に気にする事なく無表情で見返すと、チッと舌打ちをして俺から視線を外した。


「よく見ておけ———これが俺の火魔法だ! 【ファイアボール】ッッ!!」


 その瞬間に———直径15センチ程の火の玉が出て来て、ドンッと軽く音を立てて的鉄の板を軽く凹ませた。


「ふっ、どうだ俺の火魔法は」


 そう言って笑みを浮かべて此方を見るが、俺はそんなことに気づかず、別のことを考えていた。


 …………えっ、弱すぎない?

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