その12。「へっ、こんなのドラゴンに比べればそこらのゴミと変わらんな!」

「「「「「「「…………」」」」」」」」


 突然の出来事に、敵味方関係なくその場で動きをピタリと止めていた。

 特にセイドなんて今まで見たことがないくらい大きな口を開けて呆然としている。


「せ、セーヤ様……一体どれ程のレベルアップを……?」

「今は41だよ? セイドの方が高いでしょ?」

「「「「「「「たったの41!? この威力で!?」」」」」」」


 セイドと山賊達が全く同じことをハモりながら言う。

 意外と仲良いなお前ら。

 

 しかしこの反応も当たり前と言えば当たり前だ。

 俺は自分が異常である事は十分に理解している。

 何せ【死に戻り】と言うスキルに炎系魔法の威力を倍増させる【炎竜王の祝福】。

 更にはドラゴンのみが使えるとされる【竜炎魔法】まで使えるんだからな。


 これで弱いわけがない。

 今回は丁度いい肩慣らしと言うかサンドバッグと言うか何と言うか。

 まぁ取り敢えず……


「全員さよなら。来世では清く正しく生きるんだよ」

「「「「「「「「ギャァアアアアアア!!」」」」」」」」



 俺は【炎竜の息吹】で全員を焼却。

 山賊達は灰も残らず消滅してしまった。

 1人を除いて。


「ひっ、ひっぃいいいい!?」


 世紀末みたいなモヒカンの男は、無様に小便漏らして腰を抜かしていた。

 俺はそいつを指差す。


「セイド、一応誰が仕向けたのか調べる為に1人残したよ」

「……セーヤ様は馬車でお待ち下さい。私が訊き出しますので」

「分かった。待ってるね」


 今回は素直にセイドの言う事を聞いて馬車に戻る。

 正直拷問の仕方なんて分からないからセイドに任せた方がいいだろう。


 俺が馬車の扉を開けて中に入ろうとすると……


「———凄いじゃないセーヤ! 流石私の次期執事ね!」


 シンシア様が真紅の髪を揺らして俺に抱きついてきた。

 俺は突然のことに思考停止するが、すぐにこの状態はマズいと判断して引き離す。


「し、シンシア様……無闇に人に抱き付いてはいけませんよ……」

「いいじゃない。別に減るものでもないんだし」


 アンタ次期王太子の婚約者でしょうが。

 幾ら婚約破棄されるからって執事に抱き付いてはいけないの!


「……むぅ……セーヤのケチ!」

「…………はぁ……」


 頬を膨らまして子供っぽく怒るシンシア様の相手をするのはさっきの戦闘の100倍疲れる。

 どうしてこうもお転婆なのだろうか。

 悪役令嬢ってもう少しお堅いイメージなんだけど。

 

「ダメなものはダメなのです。その代わり魔法は教えてあげますので、それで許して下さい」


 俺がそう言うと、シンシア様は膨らんだ頬を萎ませて、全身で喜びを表現する。


「ほんと!? 嘘じゃないわよね!? 絶対よ! 私に【炎魔法】を教えなさい!」

「……火魔法ではダメですか? 僕炎魔法使えないので」

「……なら火でもいいわ。火と炎は殆ど同じだし」


 炎魔法は、シルフレア家に伝わる特殊な魔法で、火魔法の数倍の威力を誇り、尚且つ魔力消費も火魔法と殆ど変わらない素晴らしい魔法……らしい。

 女神が言ってた。


 俺が何とかシンシア様のご機嫌を取っていると、険しい顔をしたセイドが馬車の中に入ってきた。


「どうだった、セイド?」

「はい。詳しい話は家に戻ってからお話しします。取り敢えず早急に此処を立ち去らなければなりません。シンシア様、少し揺れが強くなりますが、ご勘弁ください」

「いいわよ別に。もしもの時はセーヤの膝の上に乗るから」

「え"っ?」


 俺はシンシア様の突然のご乱心に子供が出してはいけない声が出てしまった。

 先程無闇矢鱈に男に触れてはいけないと言ったばかりなのにこのガキは何を考えているのだろうか。


 しかしセイドはそれよりも大変なことが起きているらしく、普段なら注意しそうなのにスルーして御者席に戻って行った。

 そしてすぐに馬車が動き出し、先程の倍以上の揺れが俺たちを襲う。


「きゃっ!」


 シンシア様は可愛らしい悲鳴を上げると、速攻で俺の膝の上に乗ってきた。

 そしてぎゅっと俺に抱き付くと、


「け、決して怖いとかじゃないからねっ! 勘違いしないでよ!」


 そんなテンプレツンデレの様な言葉を発した。

 引き剥がそうかと思ったが、その手は震えていたため、仕方なくそのままなされるがままに体をシンシア様に預ける。

 

 ……馬車を降りたら2時間くらいしっかり主従関係について教え込もう。


 そう心に誓いながら。

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