第36話 決戦、ゴーレム部隊
オウの視界を通して私は謎のゴーレム達の接近を知った。
クリプタ平原に向かっているこれは、ディハルトさんから聞いていた四星の一人であるグオウルム率いるゴーレム部隊だ。
術騎隊を全滅させた私を何としてでも討伐するために派遣されたと考えると、かなり危険視されているなぁ。
「グオウルム自身は剣術や魔術を持たない。その頭脳一つでゴーレムを作り上げて王国最高戦力の一つとして数えられた」
「ゴーレムねぇ。ディハルトさん、それって魔道具なの?」
「仕掛けはわからんが、並みのゴーレムと違って中に人が乗って操縦する。言ってしまえば巨大な鎧をまとった状態だ」
「ミルアムちゃんが聞いたら飛び上がって喜びそう」
ちょうどディハルトさんが朝の素振りを終えたところだった。
ゴーレム部隊の圧は隣国にまで響いているらしくて、他国との交渉の際には必ず姿を見せるそうだ。
あの巨体をずらりと並べた上で交渉を始めればスムーズに事が進むから、王族や貴族達からの評価がかなり高い。
実際の戦闘能力も凄まじくて、総力を挙げれば都市一つを壊滅できる。
数年前に王族に反感を持っていた領主が治める領地が一夜にして焼け野原になったことがあって以来、大きな反乱が起きていないという。
それでなくてもあの大きさだし、人が操る巨人が攻め込んでくると考えたらそりゃ怖い。
「アリエッタ。老婆心ながら伝えておくが、あれは術騎隊の比ではない。ゴーレムの装甲には魔術耐性が施されているので、魔術師では勝ち目がないだろう」
「ますますミルアムちゃんが興味を示しそう。ちょっとゴーレムを拝借できないかな?」
「呑気なことを! もしこの町に攻めてきたら一瞬ですべてが消えてなくなるのだぞ!」
「でもゴーレムを拝借できたらミルアムちゃんだけじゃなく、エルカーシャちゃんも喜ぶだろうなぁ」
「むっ……!」
ディハルトさんのまた顔が赤くなった。どうもエルカーシャちゃんの話題になるとこうなる。
これが面白くてついつい名前を出しちゃうんだよね。こんな怪現象、なかなかお目にかかれない。
「エ、エル、カーシャさんが……巻き込まれるかもしれんのだぞ……」
「いや、あの人だけじゃないでしょ。とにかく相手をしてくるよ」
「ま、待て! 無茶はするな! 私も行こう!」
「裏切り者のあなたが姿を見せたらややこしくなるよ。あなたは戦死したことにしておくから安心して」
「おい!」
ディハルトさんの制止を無視して私はクリプタ平原に転移した。
* * *
クリプタ平原をゴーレム部隊がずらりと並んで進行してくる。
実際に目の当たりにするとなかなかの迫力だ。天獄の魔宮でも、これだけ大きな相手の大軍と戦ったことなんて八回くらいしかない。
あのゴーレムはどんな素材で作られてるのかな? 魔術を反射して倍にして返すリフレクトゴーレムと同じ?
それとも魔術を吸収した分、巨大化するゴーレムくらい? パンチで辺り一面が吹き飛んで死ぬかと思ったよ。
「アリエッタ。とっとと片づけてメシにするぞ」
「んー、それがねぇ。ちょっと面白いことになってるんだよね」
バレてないと思ってるのか、ゴーレム部隊の他に魔術師達が遥か遠くに待機している。
オウの目で捉えた限りだと何か大掛かりな魔術を仕掛けているみたいだ。
数人一組で魔法陣を描いてそれが複数。クリプタ平原を囲うようにして、一人の魔術師がブツブツと呟いている。
印を結ぶようにして、各魔法陣が光り輝いていた。何をするつもりなんだか。
魔術師達を眺めていたけど、ゴーレム達が一向に近づいてこない。
「何をするつも……」
一列に光が点滅した。それから間もなく閃光が放たれて、クリプタ平原を爆風が襲う。
ゴーレムが一斉に攻撃を仕掛けたみたいだ。爆発で円形に広がって、辺り一面の草木を地面ごと消滅させた。
「反応ロストしました!」
「おう! やったか!」
ゴーレム達が爆心地に近づいてきた。私を殺したかどうか確認してるんだろうけど、普通に考えたら死体も残らない。
なんてことを考えながら、ゴーレム部隊がいた場所の反対方向から見ていた。
術騎隊と違ってなかなか派手な先制攻撃を仕掛けるね。
それにしてもあのゴーレム、よく動くなぁ。関節部分が可動しやすいように隙間が空いてるし、それでいて人型として作られている。
一つ目はちょっと趣味じゃないけど、全体的なデザインは悪くない。どうやって動かしてるんだろう?
「グオウルム隊長! 辺りには何も見つかりませんぜ!」
「こりゃ跡形もなく消し飛ばしちまったなぁ! シャモンの出番はなかったわけだ! ガハハハハッ!」
「引き揚げますか?」
「おう! 楽な仕事だったが、帰ったら祝勝会でもしようか! ガハハッ!」
あら、帰るの? それは待ってほしい。ということで転移してゴーレム達の中心に転移した。
一機のゴーレムが私を見つけたようで、ガシャガシャと音を立てて後退する。
「なッ!? こ、こいつ! いつの間に!」
「おはよう、朝から働き者だね。私は生きてるよ?」
「この野郎ッ!」
片腕からまた閃光を放ったけど、攻撃を転移して反射のごとく返してあげた。跳ね返った閃光はゴーレムの片腕に直撃してぶっ飛ばす。
片腕を失ったゴーレムの切断部分がバチバチと音を立てて、千切れた配線が垂れていた。
特に攻撃を反射するわけでもなし。吸収して巨大化するわけでもなし。ちょっと期待外れかな。
「う、うわわっ! グオウルム隊長ォ! 訳が、訳がわかりません!」
「距離を取れぇ!」
ゴーレム達が一斉に離れてから陣形を作る。それからまた散ったと思ったら、あらゆる角度から閃光が放たれた。
「やってやる! やってやるぞ! 大口径ビィーム!」
「こいつで決めてやる! ブリッツミサイル!」
「迂闊なんだよ! ファイアーブラスト!」
あらゆる攻撃が私をめがけて放たれるけどさっきと同じだ。私の転移は単に移動させるだけじゃなく、力の進行方向すら変える。
これを精密に調整できるようになるのに数十年はかかった。でも苦労に見合う成果が得られたと思う。
返した攻撃がそれぞれのゴーレムに直撃して、頭部や足を吹っ飛ばした。今はひとまず戦闘不能にするだけにしてあげる。
そのゴーレムは色々と気になるからね。特にミルアムちゃんへのお土産にちょうどいい。技術に罪はないから、ぜひとも有効利用してもらいたい。
「パ、パワーが違いすぎる!」
「なんだってんだよぉ! クソッ! 動かねぇ!」
「メインカメラが壊れた! 何も見えない!」
すでに半数以上のゴーレムがほぼ動かなくなっていた。普通に応戦しただけなら向かってくるけど、自分達の攻撃が跳ね返されたら誰でも警戒する。
この人達も例にもれず、攻撃を躊躇しているみたいだ。すると一機のゴーレムが私の前に立ちはった。
「攻撃を止めろッ! やっぱりこいつはとんでもねぇ化け物だ!」
「あなたが隊長のグオウルム?」
隊長のゴーレムが私を見下ろしている。こんなにも接近してくるなんて度胸あるなぁ。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
「俺を知ってるのか! さすがに有名になりすぎたか! ガハハッ!」
「そのゴーレムを貰えたら見逃してあげてもいいよ」
「そりゃできねぇ相談だな!」
「じゃあ、ちょっと貸して」
「あ?」
置換転移で私とグオウルムの位置を入れ替えた。私はゴーレムの操縦席にいて、グオウルムが外に放り出されてしまう。
座っていた姿勢のまま転移させたから、腰を地面に落としていた。
「いってててぇ! チキショウ! なんだってんだ!? あ!? こ、ここは、外かぁ!」
「へぇ、こんな風になってるんだ」
「お、お前! そこにいるのか!」
転移したのは私とリトラちゃん、ラキとセイだ。
見慣れない場所のせいか、そこら中に飛び乗ったりいじってる。
「アリエッタ。なんだ、これは?」
「何だろうね? この棒みたいなの動かしたらどうなるんだろ?」
「やめろぉ!」
棒を動かすとゴーレムの腕が動く。ガチャガチャと動かすと腕が回転した。
「馬鹿野郎! 勝手にいじるんじゃねぇ!」
「このボタンは?」
「おいぃーーーーー!」
回転したゴーレムの腕からビームとかいう攻撃が放たれて周囲を破壊した。
止めようと思ったけど、やり方がわからない。ガチャガチャとやっているうちに今度はミサイルとかいう攻撃が大量に放たれてしまった。
「あわわわ! やっちゃった!」
「うおぉぉ! や、やめろぉ! お前らも見てないで止めろぉ!」
「隊長を巻き込んでしまいますよ!」
もう阿鼻叫喚だ。グオウルムが攻撃の嵐の中、逃げ出す。
周囲のゴーレムにも被害が及んで、各地で爆発が起こった。壊れたゴーレムから次々と兵士が逃げ出していく。
「グオウルム隊長! 逃げましょう!」
「もうメチャクチャだぁ!」
私だって好きでこんなことしてるんじゃない。止め方がわからないだけだ。
とにかく色々なところをいじったけど止まる気配がない。
「どうしよう! 何もしてないのに壊れたぁ!」
「にゃあん」
「あ、ラキ!」
ラキがポチッと赤いボタンを押して瞬間、ゴーレムが盛大に爆発した。爆炎を起こして、もくもくと煙を立てる。
私はというと寸前で転移したから助かったものの、さすがにあれは予想できなかった。
木っ端みじんになったゴーレムに駆け寄ってきたグオウルムがわなわなと震えている。
「じ、自爆ボタンを押しやがったな! あれは緊急用で最後の手段なんだ!」
「私じゃないもん。ラキだもん」
辺りに動けるゴーレムがほとんどいない。プスプスと煙を立てて半壊しているゴーレム達から次々と兵士が出てきた。
これはとりあえず私の勝ちってことでいいかな?
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