俺告白した覚えないです

 この1週間、清水さんのおはようは毎日続いた。

 それどころか、バイバイも頂きました。


「望月くん、おはよう」


 そして、今日もまたおはようをゲット。

 頬を少し染めて笑顔付きだ。


「おはよう、清水さん」


 どうして、俺に挨拶をしているのかとかはもう考えないことにした。どうせ分からないから。


「あ、あの望月くん」


「ん?」


 いつもなら席に戻っていくはずなのに、どうしたんだろう?


「きょ、今日の放課後屋上で待ってるからっ」


 それだけ伝えて席に戻っていった。

 へぇ、屋上かぁ。え?何しに?


「くそ、やっぱりか」

「諦めるしかないな」

「踏以下略」


 え?なに?何を諦めるの?

 俺死ぬの?だったら諦めないで!救って!

 つか、踏まれたいニキが死ぬべきだろ。


 逃げたい。でも、逃げたら殺されそう。逃げなくても殺されそうなんだけどな。


 いや、ちょっと待て。俺はいつからそんな臆病な男になったんだ!

 清水さんの弱点ならもう知ってんだろ!

 いいさ、やってやるよ!今日の放課後、清水さんを褒め殺すっ!



◇◆◇◆◇◆



 決戦の日は来た。


 放課後になり、清水さんが急ぎ足で教室を抜け出すのを見た。

 よし、俺も向かおう。


「望月」


 歩き出したその時、クラスメートの友達に呼び止められた。


「どうした?」


 友達は真剣そうで、でもどこか泣きそうな表情で、


「頑張れよ」


 俺の肩を強く叩いて帰って行った。


 ありがとう。

 伝わったよ。頑張るよ。俺、頑張って生きる残ってみせるから!


 心を鼓舞して屋上へと足を進める。


「……望月くん」


 決戦の日は来た。


 あの日とは違って、空はまだ青くて暖かい。

 ちゃんと人の声もする。


「来たよ」


 清水さんの前に立つ。

 表情をうかがえば、覚悟を決めたような表情だ。


「あのね――」


「待って。まずは俺から言わせてくれ」


 清水さんの発言を上から被せ止める。

 そして、行くぞ!先手必勝!!


「あの日からも、ずっと見てた。やっぱり清水さんがこの世で一番美しいよ」


 勝った……っ!


「ぁう……あ、ありがとう、えへへ」


 顔を真っ赤に染めながらはにかむ清水さん。


 た、耐えられたー?!


「わ、私もずっと見てたよ」


 あ、終わったかも。


「声が心地よくて、身長が高くて、意外とまつげが長かったり。私とは違って友達も多くって」


 ごめん、俺そこまで見てないんだぁ。

 というか、俺そんなに見られてたんだね。


「あの日からずっと考えてた」


 そんなに前から、この計画を?!

 ダメだ、年季が違う。俺の敗けだ。


「答えを言うね」


 え?なにを?


「私も望月くんのことが好き、大好き。こんな私で良ければ付き合ってください」


 ……。


 …………。


 …………………、


「え、えええええええええええええっっ?!!」


 ど、どどどういうことだ?清水さんが俺のことを好き?

 それより、私もって『も』って何なんだよ。

 俺、一度も清水さんのこと好きだなんて……


 まさか?!


『清水さんがこの世で一番美しいよ』


 これを告白だと勘違いしてたのか?!

 つか、毎日のおはようとバイバイは俺のことが気になっていたからだったのか!


 つか、あの『頑張って』は告白頑張れって意味だったのか?!

 泣きそうにしてたのは、まあそういうことなんだろう。ごめん。


 まじか、これはたぶん俺が悪い。謝ったほうが……


 ぎゅっ


「っ!!」


 右腕に何か柔らかいものが当たる。

 右に顔を向けると、清水さんが俺の腕を抱いていた。


 正直に言おう。


「し、清水さ――」


「やだ。その呼び方やだ。麗って呼んで?」


 え?誰ですか?もっと毒舌吐いてほしいです。


「いや、あの……」


「……嫌なの?」


「麗」


「なぁに、翔」


「あ、いや呼んだだけ」


 は?なんだよこのバカップルみたいなやり取りは。


 つか、もう言えねぇ。実は好きじゃない、なんて。

 今言ったら絶対ヤバい。

 もういいよ。墓場まで持っていってやるよ!


「翔」


 麗が俺の肩に頭を乗せる。


「ん?」


「だーい好き」


 麗が満面の笑みを見せる。


「可愛い」


 思わず心の声が口から漏れてしまう程にはドキッした。


 だいぶ後から知ったことなんだが、「清水さんはべた褒めに弱い」というのが広まって、試してみた男子が結構いたらしいんだ。

 全員不登校になったらしい。


 ごめん。

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