2.居場所はどこに

 小さな応接室には、重苦しい雰囲気が横たわっていた。

「私もこんなことは言いたくないんだけどさぁ」

 わたしの前に座っているのは、あるビルのオーナーだった。彼が所持しているビルの一室を借りたいというお願いにやってきていたのだ。

 電話でアポイントを取ったときから、渋い返事だったけど、熱意を持って説明すれば。そう期待しての、今日の面談だった。

「やっぱり、上の階に入ってる人とかさ、近隣の理解を得るのが難しいんだよねぇ」

「けど、迷惑をおかけするようなことは」

「でもねぇ」

 わたしが契約したいと思っているのは、就労継続支援B型事業所を開設するためだった。障害や症状に合わせて無理なく作業をしてもらう施設で、近隣に迷惑をかけるようなことは決して無いのに。

 世間では多様性と言いながらも、自分事になるとそうはいかないのだ。

 わかってる。いろんな色のネクタイをしたラクダがいてもいいと思っていても、身の回りは同じ色で固めたいのだ。

「近隣の方にはわたしから説明をさせていただきますので、なんとか」

 そう言って、オーナーをじっと見つめた。

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