ゲームセンター

「ゲームセンター!」


 アリスが行きたい場所を決めたようだ。ゲームセンターとは比較的若い世代の人間が集まって有料のゲームを遊ぶ場所だな。幽世の扉が開いて一度完全に絶滅したのだが、最近はまた復活しているらしい。


「いいだろう。明蓮達は帰って高天原をするようだから、放っておいても問題はない」


 天照が明蓮とオリンピック、それに玉藻にまで声をかけてゲームをやるために帰宅を促している。私とアリスはゲームのアカウントを持っていないので参加しないのだが、皆がゲームをしているからアリスもゲームをしたくなったのだろうか?


「それじゃ、しゅっぱーつ! あ、手をつないでね!」


 催促され、アリスの手を握って街へ向かう。周囲からは兄妹にでも見えるだろうか。妙に鼻息が荒い少女に引っ張られるようにゲームセンターを目指すのだった。




「ここにね! 可愛いぬいぐるみが取れるクレーンゲームがあるの!」


 やってきたゲームセンターの前ではしゃぐアリス。ぬいぐるみが目当てか。アリスの外見的には何もおかしくないはずだが、この娘は自分で兎を出したり出来るのだから必要はないのではなかろうか。ぬいぐるみを取るという行為そのものを楽しむのかもしれない。


「ではやってみようか。どれが欲しいんだ?」


 中に入るといくつもの透明な箱が並んでいて、その中に山積みになった景品とそれを掴むための爪がついた機械が入っている。この爪はアームというらしいが、なんとも心もとない。簡単に取られたら商売にならないだろうから仕方ないな。


「これ! この猫のぬいぐるみなんか絶対河伯お兄ちゃんに似合うよ! ふひひ」


 私に?


 またアリスのよく分からない嗜好か。いや、私の方が人間社会のことには詳しくないのだ。もしかすると彼女の感覚の方が正しいのかも知れない。


「そうか……どれどれ、ここに金を入れてこちらのボタンで動かすのか」


「あっ、普通に上のやつ掴んでも力が弱いから落ちるよ! そっちのやつに引っかけて山を崩して!」


 妙に熱のこもった指示を出すアリスにつられ、私もつい熱が入ってしまう。


「よし、ここで……あっ、落ちた!」


「あーん、もうちょっとみぎー!」


 次々と硬貨を投入し、騒がしく挑戦する私達を周囲の人間達が微笑ましいものを見る目で見ながら通り過ぎていく。やはり兄妹で遊んでいるように見えるのだろう。そんな周囲の反応も把握しているというのに、ぬいぐるみは取れない。


「何故だ、もうちょっとで取れそうなのにどうしても取れない」


「難しいねー」


 更に数回の挑戦を経て、ついに絶妙な位置で一匹の猫を掴むことに成功した!


「よし、掴んだ!」


「いけー!」


 アームに吊り上げられ、運ばれていくぬいぐるみ。固唾を飲んで見守る我々。


 外に出る穴の上に移動し、アームが開く。ここまで来たら成功を疑う余地はないのだが、これまでの数えきれないほどの失敗が我々に疑心暗鬼を生んだ。穴に落ちる最後の瞬間までまったく安心できないのだ。祈るようにぬいぐるみの行方を見守っていると、開かれたアームから真っ直ぐに落ちて穴に入っていった。


「やったぞ!」


「やったー!」


 我々は見事、猫のぬいぐるみを手に入れることに成功したのだった。


「ふう、夢中になってしまった」


「次はなにやろっかー」


 たったこれだけのゲームにここまで夢中になってしまうとは。なるほど、人間がゲームばかりしているわけだ。


 アリスの宣言通りに私が戦利品のぬいぐるみを抱え、次のゲームを物色する。上機嫌の少女が今度は格闘ゲームなるものに目をつけたらしい。


「キャラを動かして戦うのか」


「対戦しよー」


 アリスが勝負を挑んでくる。その小さな身体で操作できるのだろうか?


「ちゃんとボタンを押せるのか?」


「むっ、馬鹿にしてー! コテンパンにしてやるんだから!」


 機械の両側に座ってそれぞれの画面を見ながら操作するようだ。このような古いタイプのゲームが、最近は人気だという。あまりに技術が発達しすぎて、最新技術で作られたゲームは『遊ばされている感』があっていまいち人気がないそうだ。


「むむっ、操作が難しいな」


「いけー、ギャオロン!」


 アリスが操作するなんだかよく分からない造形のキャラに一方的に殴られる私の操作キャラ。これはダメだな、練習しないとろくに動かせるようにならなそうだ。神通力を使えばこの手の電子ゲームは自在に動かせるが、それではゲームにならない。


 結局アリスの操作するキャラに手も足も出ず完敗してしまった。さすが、言うだけのことはある。


「ふっふーん、アリスの勝ち!」


「まいりました」


 初心者を一方的に倒して勝ち誇るアリスに、苦笑しながら敗北を認める。まあ、楽しんでいるなら良いことだ。


「よーし、じゃあ次は音ゲーしよー!」


 こうして私とアリスは、時間の許す限りゲームセンターを堪能するのだった。

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