閑話:類稀なる人々(五輪視点)

 マレビトは稀人と書くらしい。幽世からやってきた神であり異邦人でもあって、異界から訪れた客人であるマレビトはもてなすのが日本古来からの習わしだった。彼等は仮面を被って現れ、悪霊から守ってくれたり、豊穣ほうじょうをもたらしてくれる素晴らしい客人なのだという。


 なのに、幽世の扉が開き多くのマレビト達が現世を訪れた時に人間の国家が取った行動は、敵対だった。


 結果として、人類はかつての十分の一程度に数を減らすこととなったのだ。


 その歴史を学んだ私は、マレビトと仲良くすることが人類の未来を明るくする道に違いないと思った。だって、彼等をまつっていた頃の日本はとても発展していて、平和そのものだったそうなんだから!


男鹿おがのナマハゲ、吉浜よしはまのスネカは鬼のような姿で子供を脅かす……うん、怖いからパス。能登のとのアマメハギ、なまけ者の証であるアマメをいで勤勉にさせる……うーん、私は怠けていたいな。見島みしまのカセドリは厄を払って家内安全五穀ごこく豊穣、さらに顔を見ると幸せになれる!? よし、カセドリに決定!」


 マレビトと仲良くするといってもあてがあるわけではなかった私は、有名な来訪神行事を調べていた。当時十三歳、行事が行われていたという北九州の佐賀県に自力で行けるはずもなく。


「お父さん、佐賀県にいきたい! ロマンシングだよ!」


「いや、今は全然ロマンシングじゃないから。あの辺はマレビトだらけで危ないぞ」


 だから行きたいのに。超ロマンシングじゃない!


 結局近場の遊園地に連れていかれた十三歳の私。ジェットコースター百本ノックで父親を泣かせたのは良い思い出だ。


 それからはいつか佐賀に行く日を夢見ながら、周辺の伝承を調べて回るようになった。親には心配されて友達からは変人扱いされたけど、私は人類の明るい未来のために、例え一人ぼっちになってもマレビトと仲良くなる方法を探すと決めていたから、何も怖くなかった。



 そして今日。不思議な転校生の河伯君と一緒にローレンス学園裏の森に道案内少女を探しにきた。小さい女の子ならそんなに危なくないだろうと思ってやってきたのだけど、正直本当に会えるとは思っていなかった。


「ねーねー、五輪お姉ちゃんは河伯お姉ちゃんとどうやって仲良くなったの?」


 無邪気な笑顔で、私と河伯君のことを聞いてくるアリスちゃん。河伯君のことを女の子だと勘違いしてるけど、私も最初はそう思っていたんだよね。男子がスカート履いちゃいけないってわけじゃないけど、それよりもあの綺麗で可愛い顔とか小柄な身体とか、どうしても女の子にしか見えなかったからさあ。


「学校の同じクラスに転校してきたんだよ。たまたま校門で出会ったから、職員室まで案内したんだ」


 私の話に目を輝かせて聞き入るアリスちゃん。ほらね、やっぱりマレビトと人間は仲良くなれるんだよ。いつかきっと、佐賀のカセドリにも会いに行くんだ!


「河伯お姉ちゃんのこと、好き?」


「えっ、えーと……」


 なんか、ものすごくニヤニヤしながら聞いてくるんですけど! 確かにこの年頃の女の子はこういう話大好きだけど。


 河伯君のことはまあその、私の趣味に付き合ってくれるし色々気を使ってくれるから、ついつい甘えちゃうというか。好きか嫌いかで言ったら好きだけど、彼ははっきりと副会長のことが好きって態度してるし、副会長も嬉しそうだったし。


 その後、家に帰って親にマレビトだって紹介したら驚きながらも歓迎していた。これがナマハゲだったら阿鼻叫喚あびきょうかんだったんじゃないかな。やっぱり見た目は大事だよね!


 アリスちゃんは夜遅くまで恋バナを求めてきた。小説は読んだことないけど、不思議の国のアリスってこんな子だったっけ? 河伯君の説明だと小説の主人公そのものではないって話だから、たぶん違うんだよね?


「ねーねー、女の子とキスしたことはある?」


「いやー、それはないねー」


 うーん、私が想像していたマレビトと仲良くする未来とはだいぶ違うけど、アリスちゃんが可愛いからいっか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る