第4話:勝手にしやがれ (À bout de souffle)・マガイモノ05

「――ふふ。ハッハッハ!!!」

「なにがおかしい!?」

「いや、のろまだな……と思ってな。お前なんかリボルバー無しでも勝てるぜ」

「ニルヴァーナ能力もない貴様がまともな武器も持たずにオレ様にどう勝つってんだ!!」

「……知りたいか?お前の敗因のネタバレになるぜ?」

「ふざけやがって!!カムイ!!!削除だ!!!」


 思った通りだ。挑発したらまっすぐ突進して来る。こいつはこれから『雑魚キング』だ。いま俺が命名した。ヤツのバカ正直な突進攻撃を軽いステップで避けて、少しだけ距離を取り、リボルバー用のホルスターを後ろに投げ捨てた。誰かが拾ってくれるのを少しだけ願いながら……


 そして、俺は腕をボクサーのガード時の姿勢のようにして、瞑想するかのように目を閉じ、念じる。


(森羅万象を統べる雷光の化身よ、事象を喰らう貪欲の化身よ、今削ぎし我が寿命に答えたまえ)


 徒手空拳だった俺の両手にズッシリとした重さがのしかかる。目を開けて俺の両手に雌雄一対の刀が握られていることを認め、念じていた呪文を終えると、俺は地面を蹴って高くジャンプし、雑魚キングに素早く迫る。


「ば、ばかな!?無から剣を作りやがっただと!?」

「剣じゃねえよ。刀だぜ。欲しいなら、お前にやるぜ!!ほらよ!!」


 雑魚キングの間違いを訂正してあげながら、同時に、左手の『熾天シテン』をヤツの眉間めがけて投擲する。赤と黒の優麗なメタリックデザインが目立つ『熾天』は過激にほとばしる青い稲妻を纏っている。ヤツみたいな雑魚は慌てて回避するしかあるまい。何のひねりもない低次元の戦法だが、ヤツにはぴったりだったようだ。


 だが、そこで投擲した『熾天』を再び呼び戻す。呼び戻す位置は俺の両足の裏スレスレだ。俺はその『熾天』を蹴って、空中で宙返りを決め、雑魚キングの背後に回る。ヤツは自分の眉間に飛んできていた青い稲妻の『熾天』を避けようと隙だらけになっていた。これじゃ、まさに雑魚いじめだな。


 ヤツの背後に着地しながら、右手の『刻天コクテン』で滅多斬りにする。白と青がメインカラーの『刻天』はサメの歯並びのようなグロテスクな形をしていて、触れた物を喰らう。引きちぎれて空間ごと消滅するのだ。どういうことかって、人が猛獣に胴体を激しく噛まれてボロボロにとか言うニュース映像を思い出したらいい。だから、実は滅多斬りなんかするのは間違った使い方なのだ。愛でるように優しく深く相手の肌に押し付けるのが『刻天』の真なる使い方ではあるが……マガイモノ共への繋がりは今んとこ雑魚キングしかいないのだ。失うわけにもいかんな。


「ミナモト流 偽典ぎてん朧霞オボロカスミ!!」

「ぐあああああッッッッッ!!!!」


 おい。雑魚キングめ、体の表面を切り刻んだだけでそんなに絶望に満ちた悲鳴を上げるなよ……それは『刻天』の正しい使い方をしたときに上げるべき悲鳴なんだよ。もしかして、ふざけているのか?


「探偵レーヴ君!!こんな手の込んだドッキリはあり得ないよな?」

「安心してください!!!雑魚キングの技量が想像を絶するほど低かっただけですよ」

「だよな!?」


 俺は胸をなでおろし、熾天と刻天を冥界へ返した。返すときには呪文も要らないから便利極まりないものだ。


(ふうん?探偵レーヴ君に俺がさっき命名したばかりの『雑魚キング』なるあだ名を教えたっけな?まぁ、戦闘の拍子に俺が叫んだのを聞いただけか――)



 ――つづく――

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