第3話:ドレッドノートで朝食を (Breakfast at Dreadnought's)・忘れ物04

 ・聖エデン世紀 1160年 07月 21日 13時 08分

 ・カムイ、ヤチコ、ラニアケアの3人がレーヴに呼び戻される

 ・ドレッドノート記念公園~竣工祝い手形付近


 ヤチコちゃんのアルキュビエレ・ドライブでテレポートした俺たちは探偵事務所があったところからだいぶ離れた場所に来ている。どうやら、探偵のレーヴ君は緊急事態だったようで、探偵協会の特殊権限を使って俺たちを呼び寄せたらしい。探偵くんに諸事情は聞かせてもらったから、いまは対策会議中である。


 今日は俺の怪盗経歴の中でも上位にランクするぐらい特に忙しい日だ。あの馬鹿力の拳法使いに追われるやら、紆余曲折の末にそれをやっと撒いたと思ったら、探偵くんに再び呼び戻されるやら。なんて波乱万丈で素晴らしき日なんだ?これだから、怪盗は飽きないんだよ。


「ラットボーイ……それは怪盗だからではなく、あんたの存在そのものがそういう事件を呼び寄せているのよ。あんたの通り名何だと思ってるの?」


 俺が呼び寄せているんだって?人を雨男扱いしやがって。しかも、雨ならまだしも、事件事故のほうだから、余計始末が悪いではないか。俺はそんな極悪人じゃないぜ?


「俺の通り名なら……『二日酔い遅刻勇者のカムイちゃん』とか、ラニアケアちゃん、君に出会う前には『恋愛経験皆無係長のラットボーイ君』とか、他にも色々あったぜ?」

「何をバカな事を言ってるのよ。世間でのあんたの通り名は『リビング・ディ人間災害ザスター』だわ。そして、ちょうど今、視覚的にもすごい災害になってるの」

「おう。聞いたこともない通り名だぜ。それにしても、俺の裸はそんなに災害か?」


 ああ――ヤチコちゃんめ、またもやニルヴァーナ能力の発動代償に俺の服をすべて貢いだか。彼女は緊急時にはいつも俺が着ている『ドロシー&カペーDorothy&Capenaナ』のスーツを発動代償に貢ぐ癖がある。しかし、本当に癖か?もはや、わざとやってるとしか考えられないぜ。


「まぁ、モノ出したまま探偵くん守れる自信も無いしな。仕方がない。カムイ専用コーボーくん、出てこいよ」

「はろー!呼ばれて飛び出て、ボクはヤチコさんの魔改造により、カムイ様の命令のみ遂行するスレイブAI『バカムイ零式』です!」

「てめえ……なんちゅう名前してんだよ。とにかく、俺のスーツを頼むぜ。それも早めにな。南西のほう遠く立ちのぼる煙りが見えるか?探偵くんを襲ったマガイモノの秘書さんが鬼の形相で俺たちを探してんだろうよ」

「では、カムイ様の新しいスーツの購入をサポートします。今日のおすすめメーカーは『イェーガー・サンJaeger Saint Loreleyローレライ』です。……はい!購入及びお届け完了しました。クーポンの『迷えるわんこちゃんスタンプ』付きです😀」


 ほう、普段はドロシー&カペーナばかり着ていたが、こっちのイェーガー・サンローレライも悪くないな。よし、俺の大事なモノもしっかり締まったところで、あのマガイモノの秘書さんを締め上げに行こうじゃないか。元々俺は今日の大騒ぎの真相を暴くつもりでいたが、むしろ手間が省けたわけだ。俺が探偵くんの代わりにマガイモノの秘書さんを叩きのめし、真相は探偵くんが俺の代わりに追えばいい。これぞまさに怪盗らしいやり方である。怪盗美すら感じる。


「腕力に訴えるのが怪盗美なのか?それともアタシのアルキュビエレ・ドライブで逃げ惑うのが怪盗らしいやり方なのか?さあ、答えろ。バカムイ」


 俺がスーツを着る間に自販機でキッカス・クーラーを買って飲んでいたヤチコちゃんがそうからかってきた。怪盗秘書ヤチコちゃん――給料制なのにも関わらずなんとも社長が怖くないらしいな?


「うるさい!!俺の裸の鑑賞が趣味のヤチコちゃんにそんな風に言われるとは片腹痛いぜ」

「はあ???アタシのニルヴァーナ能力には発動代償が要るし、豪華なものほどパワーが上がるんだぞ。すぐに手に入れられる豪華なものなんて、目の前にいるカムイのスーツが最適じゃないか!」

「わからず屋だな!!だから、何でパンツまでごっそり持っていくってんだよ、まったく!!」

「カムイさんとヤチコさん、お二人とも喧嘩もいいですけど、準備が済んだのなら行きましょう?」


 そんな俺たちの喧嘩にいよいよ嫌気が差したのか、ため息混じりに探偵くんが止めに入ってきた。その横で昔を懐かしむ表情で俺たちを見つめているラニアケアちゃんが妙に印象的だったが、いまは触れないでおこう。気のせいかも知れないしな。



 ――つづく――

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