第16話 嘘でしょ……

「……、ですからユキお嬢様。今回のクエストはどんな危険が待ち受けているか分からない特殊なクエストなんです。こういうクエストは、マツザカのような、いつ死んでも良い冒険者に任せるべきです」


「ふふ、だからこそ行くんじゃありませんの。森の中に、突如現れた謎の大穴とその探索、実に面白そうですわ-! あなたもそう思うでしょ、駄犬」


「ワン、ワン」

 

レイカさんに命令された「私を背負いながら、腕立てをしていなさい」という罰を実行しながら返事をするマツザカ。


「ああああもう、なんなんですかぁぁああ、あなたたちはぁぁああ」


遂に発狂して頭を掻きむしり始めたレイカさん。


「あ、あのレイカさん……、少し落ち着いて……」


そして、そんなレイカさんをなだめる私。


なぜこんなハチャメチャな展開になってしまったのか。


―それは遡ること10分前


MMTにクエストを依頼しようと、床をペロペロ舐めているマツザカと相談を始めたレイカさんだったのだが、その間に突然、ユキさんが割って入り、


「私もご一緒しますわ」


と言い出した。


しかし、レイカさんは、ユキさんに万が一のことがあれば、私のクビが飛ぶと言って、ユキさんの同行に断固として反対し、2人は部屋を移して話し合うことになった。

だけど……。


「ふふふ、怒っていても可愛いですわ、レイカさん。あなた、私のペットにならない?」


「だ、誰がなりますかぁぁああ、って、そうじゃなくて!」


「あら、それじゃあ私の椅子になりたいのかしら。レイカさんならいつでも大歓迎ですわ!」


「ああああああああああああもう、いやぁあああああ」


「あはは、レイカさんは本当に可愛いですわね!」


レイカさんはさっきから、こんな調子ずっと弄ばれており本題については、全く進展のないままだった。


「ゆ、ユキさん……、レイカさんが可哀想ですよ……、次もあるみたいですし、あんまり時間をとっても……」


ユキさんに虐められているレイカさんが不憫に思えて仕方なく、助け船を出した。


「あら、そうですわね。ふふ、もっと遊んであげたかったのだけど、続きはまた今度にしまましょうか」


そう言うと、ユキさんは、机をバンッと叩き、


「とにかく、私はこのクエストに同行致します。ただ、私の身の安全が心配なのは重々理解しておりますわ。そこで、私の犬達と下で腕立てをしている駄犬、そして……」


なぜかこっちを見て笑うユキさん。

すると、


「そして、このヒカリさんを私のボディーガードとして連れて行きますわ。これなら、もし私に何かあったとしても、ヒカリさんが死刑になるだけで済みますわ!」


「……は?」


この人、今なんて言った?

ボディーガード……?

私が?

それで、もし何かあれば死刑?


「はぁぁああああああああああ? ちょ、意味分かんないですよぉぉおおおお」


「あら、不満かしら?」


こちらを見ながら、不敵な笑みを浮かべるユキさん。

「ふ、不満に決まってるじゃないですか! 嫌ですよ! 私は絶対に行きませんからね!」


「あらあら、でもせっかく手続きまでしましたのに、行かなくて大丈夫なのかしら?」


「え? どういう……」


「ふふ、はいコレ」


ユキさんが一枚の紙を渡してきた。


「なんですか、これ……」


気になって読み進めると、レイカさんが持ってきたクエスト受注承諾書と一言一句違わない文言が書いてあった。

しかし、最後の行だけはレイカさんのものと違い、


「以上の事項に同意し、クエストを受諾する ヒカリ」


という文章と共に、拇印が押されていた。


「は? な、なんでぇぇええええ」


「ふふ、言ったでしょ。私が家の情報網を舐めないでと。レイカさんが持ってくる前に受注承諾書は手に入れていますわ」


確かにそれは凄いけど……。

重要なのはそこじゃなくて、


「じゅ、受注承諾書はともかく、拇印はどうやったんですか! 私、押した覚えないですよ!」


「ふふ、そんなの簡単ですわ。だって、ヒカリさん。あなた、私の手配した部屋で寝ていたんですよ」


「なっ……」


思わず絶句した。

だって、


「そ、そんなの犯罪ですよ! 分かってるんですか?!」


「ふふ、レイカさん。残念ながら、私の家は自警団にも多額の寄付をしておりまして。万が一バレたとしても、もみ消すのは絶やすいんですのよ」


「う、嘘でしょ……」


「ヒカリ、残念ながらユキお嬢様ならやりかねん。全部丸投げして悪いが、大人しく従ってくれ。これで断りでもしたら、私もお前も、本当に何かされかねない。お願いだ! この通りだ!!」


そう言って、私の前で見事な土下座を披露するレイカさん。


「そ、そんなぁぁああああ」


思わず、その場でへたり込んでしまった私。


「あははは、それではよろしくお願い致しますわ。ヒカリさん」


そんな私達を見て、ユキさんは高笑いをしていた。


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