第16話 対立

「こんにちは。皆様は何故こちらに?」

「我々はアルバート王国の兵である!」

「ええ、いますよ」

「……口の利き方には気をつけろよ?」


 無駄に高圧的な男が五人。私もよく威力偵察に使う最小単位だ。


「貴様のような辺境の村人風情に使う時間も勿体ないので要件を伝える。──我々はこの村を焼き払う。死にたくなければ明日までに出ていくが良い。せめてもの優しさだ」

「……それはどういう意図があるのでしょうか」


 こんな小国相手にそんな強攻は不要だ。


「それをお前に話す理由はない。どうしても出ていかないと言うなら明日に二百の兵で皆殺しだ」

「人口たった五十人程度の村に大層な作戦ですね」

「明後日にいらっしゃる陛下には綺麗さっぱり無くなったこの村の様子をお見せしなければならないからな」

「…………!」


 トップが来るなどという重大な話を簡単に漏らすあたり、練度は相当低いことが伺える。

 だがしかし……


「これは王が主導となって行っているということですか」

「その通りだ。だから貴様らなどが歯向かうことなど許されん」

「どうしてしまったんだジョージ……」

「貴様無礼だぞ!」


 兵士の一人が剣を抜き私の首に刃を当てた。


「──エドガーさん!」


 それを窓の隙間から見ていたメアリーたちが飛び出してきた。

 私は兵士から目を離さずそれを手で制止する。


「大丈夫ですよ。……お前たち、エドガー・ウィンチェスターの名前に聞き覚えはないか」

「お前の名前など知ったことでは無い。……いい加減その生意気な口を閉じろ」


 男は剣を私の首に押し当てる。首の薄皮が切れ首に生温かい血が流れる感触があった。


「……ではこの聖剣に見覚えは」

「アルバート王国の紋章!? 何故それを貴様が持っている!」

「これは陛下から下賜されたものだ。ジョージと直接、話をさせろ。お前たちでは話にならない」

「……黙れ! ……今すぐお前を叩き殺してやりたい所だが王からの命令は絶対だ。今日だけは見逃してやろう。お前がいくら騒いだところで明後日王がここに来ることに変わりはない。そんなに会いたければ会わせてやろう。明日お前を殺して王の前にその首を差し出してな! ははははは!!!」


 アルバート王国がこんなチンピラ紛いの兵士を雇っていることに衝撃を覚えた。そして何故一方的に侵略し村を焼くなどという蛮行に及ぼうとしているのか。

 少なくとも私がいた時のジョージはそんなことをする人間ではなかった。曲がったことが大嫌いな、誠実な人だったはずだ。


 兵士らが去っていくと、ゾロゾロと家の中から村人たちが出てきた。


「エドガーさん……」

「……ごめんなさいメアリー。いつかちゃんと話そうと思っていました。この戦いが終わったら必ず全てを話します」

「戦いって、エドガーさんあんたアルバート王国と戦争するつもりか!? そんなの無理だ! 大人しく逃げよう!」

「一日……。たった一日だけ二百人の敵兵の攻撃に耐えればいいのです。彼……、アルバート王がやってくれば私が話をつけます。何年も続くこの村での皆さんの生活と何ヶ月ものメアリーたちとの暮らし、この一日のために全てを捨てさせることなどできない」

「だけどよ……」


 アルバート王国の思惑は分からない。だが私が原因なのかもしれない。それともただの運命のイタズラか。

 いずれにせよ、私がここに居る以上、そう簡単に諦める訳にはいかない。


「戦いが始まったら皆さんは逃げてください。ですがそれまで、是非とも協力して欲しい。どうか……、どうかお願いします……」

「……俺は馬鹿だからよく分かんねぇけどよ、エドガーさん、あんたならなんとかしてくれるんだな?」

「約束はできません。ですがこの村を守るため、全身全霊最後まで戦うつもりです」


 何もせず村を捨てて逃げる。そして彼の凶行を受け入れる。それは村の人たちにも、ジョージにも顔向けできない。

 村の一員として、彼の親友として、何としても止めてみせる。


「……よそもんのあんたが……、いや、村の仲間がそうやって立ち上がってるのに見捨てるはずない。そうだよな!」

「ベンさん!」

「そうだよエドガーさん! 私らも村のために戦うよ!」

「そうじゃそうじゃ! 山賊どもの時は怯えてばかりじゃったが今度は違うぞい!」

「皆さん……!」

「エドガーさん、私たちも戦います。ね、グレイちゃん」

「……グレイ……戦う……」

「メアリーさん……、グレイさん……」


 懐かしい記憶を思い出した。こうやって少ない人数で大勢の敵を打ち破ったことを。

 冷静さを欠いた行動をするジョージには少し痛い目を見て貰うことにしよう。


「時間がありません。皆さん私の指示に従って速やかに行動を開始してください!」

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