- 第 2 話 - 地図から消えた町<モルニア>
標識には<モルニア>とあった。じりじりと錆が広がっていた。
文字の上から×印が描き加えられており、垂れて固まったペンキが、流れ落ちる血のようだった。
三角形の標識がもうひとつあり、そちらは比較的まだ新しく見えた。くすんだ黄色をした表面の中央に、黒く文字が記されている。
「ここから先が、いまだに消えることのない炎と、幽霊がさまよう町」
と、メルカが言った。「さぁ友達を作りにいくわよ」
風に交じって焦げた匂いがメェダスの鼻にまとわりつくような気がした。町へ近づいていくと、その匂いはより色濃くなっていったが、やがて鼻がすっかり慣れてしまい感じなくなった。
陽が傾きかけた頃、町にようやくたどり着いた。
ふたつの足音だけが響いている。町はもぬけの殻で、風でキィキィと閉まりかけた扉が、むなしく鳴いていた。
ぷしゅう、と空気が抜けていく。
地面がカタカタとゆれ、開いた亀裂から砂ぼこりが静寂を切り裂いて舞い上がった。メェダスは驚いて、短く悲鳴をあげた。
「なんなんだよこの町は。誰もいないじゃないか」
人影はまったくなかった。この区域に入ってから誰ともすれ違うこともなかった。町へ近づくにつれて、地面は割れ、隆起し、道には段差がひどくなっていた。
建物は大半が崩れており、壁面には様々な落書きがされている。街灯は折れていて先はなかった。
「みんな引っ越してしまったのよ。近くでずっと火事が起こっているから」
「近くで?」
「燃えているのはずっと下のほう。最近になってようやく落ち着いてきたみたい」
乾いただけの地面をまじまじと見た。
「ときどき空気が噴き出してくるのはそれのせいね。地下で行き場をなくした空気が押し出されて、突き抜けて出てくるのよ」
メルカは立ち止まって、空中にふわふわと漂っている本に書かれている地図を指さした。
「だいたいこのあたりに鉱山の入り口があるはずなの」
指をさした先には何も書かれていなかったが、かつてはそこにあったのだろうか。
「今日のうちに、できれば鉱山までは行っておきたかったんだけど、起伏が多くて、予想よりも時間がかかってしまったわ」
ぽっかりと穴が開いたように、地図から消えていた場所には、ひと筋の道ができていた。地図の下側から伸びている道は、これまで自分たちが歩いてきた道だった。
「鉱山の内部は迷路のように入り組んでいてね」とメルカはつづけた。「その複雑な地形と、内部に溜まっていたガスにどんどんと引火してしまったことで、手が付けられなくなってしまった。消火活動は難航して、しばらくして完全に打ち切られてしまったの。あとは自然の流れに任せることにしてね。その炎は、今もどこかで燃えている」
地図の枠外に記載された文字を目で追いながら、メルカは淡々と説明した。
「そのときに消していればなぁ」
地面から生えた草は好き勝手に伸びきり、黄ばんでいてあまり美味しくなさそうだった。
「消火活動が打ち切られた原因はもうひとつあるの。鉱山の火事とほとんど同じくしてこの町に、怪奇現象が起こり始めた」
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