ふえるマッドサイエンティスト

@Greenhelmet

第1話 [そうだ、○○しよう]

 [もうダメだ]と、科野 梨芽(シナノ ナシメ)は直感した。鏡に姿を写す度に増えてゆく目のクマや、散らかった部屋が自らの心情を表しているようだった。

 そして彼女は決心した。


 ナシメ「そうだ、死のう。楽になろう。」


 彼女は早速フラスコを棚から取り出し、色とりどりの様々な劇薬を計量もせずに目分量で流し込んだ。すると赤い煙がポンッと上がった。

 ナシメは照明にその液体を照らし、口角を上げる。そして...

 薬に栓をし冷蔵庫へ仕舞った。


 ナシメ「おっと、死ぬ前に私の偉大なる頭脳をこの世に残しておかないとだったな。」


 独り言を口から盛大に漏らしながら、床のゴミを蹴飛ばし、机へ向かう。


 ナシメ「良いアイディアだ!良いアイディアが必要だ!」


 机上に設置された棚から紙製のファイルを一冊引き出す。ファイルの中身には、過去に人体の再現を試みたロボットの制作記録や、類人猿の資料が粗雑にまとめられていた。


 ナシメ「う〜ん、アンドロイドは関節系統がすぐヘタりそうだ。

 脳の摘出による保存は体を失うだけで私の意思そのものは生き続けることになる。

 あれま!いきなし行き詰まってしまった!」


 ナシメは取り出した資料を再度適当にファイルに挟め、棚に戻した。


 ナシメ「私の思考を完ぺきに真似ることができるスーパーコンピュータ!は、真似てるだけで自らの発展が出来ないから却下と。

 そもそも0と1の違いしか理解できないようなコンピュータに、私のエキセントリックな思考を再現させるというのが不可能だな。」


 額を机に叩きつけた。肩から掛けていた白衣を頭から被り、左足で貧乏ゆすりを始める。

 時計の針の進む音が部屋に木霊していく。


 ナシメ「再現は不可能か。」


 ふとナシメは先程のファイルを戻した棚へ視線を向ける。

 ズラリと並べられた同じ色のファイル達。一つも寸分の狂いもなく同じ形、色をしている。


 ナシメ「一つも...狂いなく...同じ...!」


 ナシメは椅子から飛び上がった。その顔は歓喜満ち溢れていた。


 ナシメ「そうだ、複製しよう。」

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