第5話 おっさんは不機嫌で、勇者は上機嫌

「うっ、ううっ……」

うめいてないで、そろそろ起きたまえ」


 ばんっ!!


 朝、寝ぼけ眼の俺は、いきなりベッドから叩き落とされた。

 昨日の夜は、宿屋の2階に個室を貰えたので、ぐっすり眠ろうと思っていたので、俺としては眠り足りず、ちょっぴり苛立っていた。


 朝から誰だろうと起き上がると、そこには朝っぱらから元気そうな、顔色が良さそうな【勇者】セラトリアがいた。

 朝早くなのに彼女は戦闘用の鎧に、勇者しか使えない伝説の聖剣を持って、まさに今からでも冒険に行きそうな恰好である。


「遅いぞ、アルテ。早く起きて、出発の準備をしたまえ」

「えっ、出発?」


 俺は慌てて起き上がると、窓から外の様子を確認する。


「----まだ夜も明けてないように見えるのだが?」

「まぁ、確かにいつもよりも2時間くらいは早いな」

「2時間……」


 いや、俺だって別に朝が弱い訳じゃないし、依頼のためなら深夜遅くだろうと起きて仕事に向かうぐらいの覚悟もある。

 しかしながら、なんの事前報告もなしに、いつも起きている時よりも2時間も早く起こされれば、流石に不機嫌にもなるだろう。


「どうしたんだ、こんな朝早くに。今日は村で情報収集をするとしか聞いてないが」

「あぁ、確かにそのつもりだったが、状況は刻一刻と変化しているのだ」

「……で、用件は?」

「簡潔に申せば、ドロミオーネの居場所が判明した」


 ……は?


 俺は、唖然としていた。


 魔王軍四天王が1人、ドロミオーネ。

 ゾンビ達の王と言っても過言でもないこの四天王は、ゾンビ達を生み出した者であるということ以外は、姿が何も分からない四天王。

 俺達はそんな正体不明の四天王を探るために、この村にやってきたはずだ。


 正直、今日一日で情報が1つでも出れば満足という程度の話だったのだが……ドロミオーネの居場所が判明?


「なぁ、【勇者】セラトリア様。それって、どういう……」

「話は下で。既に2人も待ってるからな」

「ナウンと、シャルも?」


 なんで、俺以外の3人とも、そんなに朝早くから起きてるんだろうか?


「したっ、下でお仲間さん達が待っておられますよっ!」


 なんか、セラトリアの横に、宿屋の娘さんが居るのも見える。


 俺達勇者パーティーが泊まっているこの宿は、この村唯一の宿であり、本来はお父さんお母さんの、家族3人で細々と経営していたそうなんだが、ドロミオーネによってご両親はゾンビに変えられてしまったそうだ。

 この村にはそういう家が結構あるらしく、そういう人達を見るとやはり魔王を倒さなければならないと、俺は奮起したね。うん。


 こういう子供達を失くすことが、俺達大人の義務なんだとは思うんだよ。

 ……まぁ、奮起しても出来る事と出来ない事もあるが。

 そういう事が出来る勇者様達を援護する事が、今の俺に出来る事だと割り切って、頑張るしかないよな。


 娘さんはぷるぷると小刻みに震えながら怯えている。


 ……恐らくは横に居る勇者様が怖いんだろうな。

 そりゃあそうだもんなぁ、朝早くから戦闘態勢ばっちしな勇者様の姿は、俺でもちょっと怖いぞ、うん。


「ほら、宿屋の娘さんもこう言っておられるし。さっさと降りようじゃないか」


 ……どうも俺には選択肢とやらは、ないらしい。

 仕方なく、俺はささっと着替える(と言っても、道具を入れてある服を上から羽織っただけなんだけど)と、2人が待つという、宿屋の1階へと足を運ぶのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 1階に降りると、そこには【勇者】のセラトリアを真似たのか、既に冒険に行く準備を済ませた【賢者】ナウンと、【聖女】シャルの姿があった。

 2人とも準備万端と言った様子だが、それ以上に目の辺りに薄っすら隈が出来ているのが気になるんだけども。


「2人とも、おはよう。セラトリアに、朝早くに起こされたようだな。ちょっと寝不足じゃないか?」

「ふっ、ボクの心配なぞ、要らぬ心配だ」

「えぇ、兄さんは少し遅れた事を反省すべきです」


 辛辣に、2人は俺にそう言い放つ。

 ……いや、そこまで辛辣に言われなければならないくらい、酷い事言ったか、俺?


「3人とも、揃ってくれたね。それでは、四天王ドロミオーネの所在について、話し合いを始めようじゃないか」


 そして、勇者パーティーによる、四天王ドロミオーネについての会議が始まったのであった。



「がっ、頑張ってくださいね! お料理、作っておきますね」


 宿屋の娘さんの、健気な言葉が救いだよ、うん。

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