4/23 「3つの『なぜ』」について



 前々からの持論であるのですが、『なぜ』という言葉の意味、その食い違いが生み出す悲しいすれ違いについて、考えていることを纏めておこうと思います。




 人が『なぜ』と問うとき、そこには3つの種類があります。


(1)原理の『なぜ』

 どういうメカニズムや仕組みでそうなるのか? という問い。


(2)意図の『なぜ』

 人が何を狙って、どういう目的でその行為をしたのか? という問い。


(3)運命の『なぜ』

 なぜ「他の誰かではなく」自分にそれが起きたのか? という問い。




 (1)原理の『なぜ』は、とても分かりやすい。いわば科学的な根拠や理由を問うているわけです。

 その解答は、実験、調査、論理的思考によって構築することができる。あるいは、解答が得られないことが分かる。


 (2)意図の『なぜ』は、社会生活における動機の追及です。人がある行為をしたとして、『なぜ』その行為に至ったのか?

 そこで問われているのは行為者のエゴや自制心の形であって、多分に感情的な要素を含みます。しかし、これも経験や調査によって、おおむね答えを出すことができる問いです。




 問題は(3)運命の『なぜ』です。

 基本的に、コレには答えがない。


「なぜ私の人生はこんなに苦しいのか?」

「なぜ他の誰かでなく私が事故にあったのか?」」

「なぜ私だけにこんな不幸なことが?」


 その答えはほとんどの場合、メカニズム的には「偶然」としか言いようがなかったりする。


 ところが、答えがない『なぜ』に、人は往々にして耐えられない。

 「単なる偶然だ」という答えに満足できなかったとき、運命の『なぜ』を、原理の『なぜ』や意図の『なぜ』にすりかえてしまうことがある。

 コレがマズい。とてもマズい。




 たとえば、


「私が悪い行いをしたせいで、その罰が当たったんだ」とか。

「誰かが私を苦しめるために世界を操作しているんだ」とか。


 これは、本来答えのない『なぜ』に、自ら答えを創り出してしまう思考です。

 人それを妄想という。


 こうした妄想に飲み込まれたとき、人はとんでもない行動に出てしまうことがある。

 世にはびこる『陰謀論』なるものも、基本的には運命の『なぜ』を意図の『なぜ』にすりかえたものと言えましょう。


 地震が起きたとき「誰かが悪意をもって人工的に引き起こしたものだ」とか。

 どこかからミサイルが飛んできたとき「政治家が世論の目をそらすために命じて撃たせたんだ」とか。

 疫病が流行ったとき「悪の組織が人類を殺戮するため(あるいは金を儲けるため)に病気をばらまいたんだ」とか……




 こうした考えにハマってしまった人は、本来、運命の『なぜ』を問うているのです。

「『なぜ』このタイミングでこの災害が?」

「『なぜ』都合よくこんな事件が?」

「『なぜ』他の誰でもなく私がこんな目に?」


 だから、周囲の人間が原理の『なぜ』を説明しても響かない。その人々の欲しい答えは、それじゃないのです。




 だから、自分がこうしたすりかえを無意識にやってしまわないように、気をつけねばならないな、と思います。

 そのさい大切なことは、「たんなる偶然によって理不尽な苦しみや不幸が襲ってくることは、実際あるんだ」と飲み込むこと。

 そして「それを受け止めたうえで、より安楽に生きるために今できることをやろう」と歩むこと。

 その2つを、忘れないようにせねばならないな……と思います。




 そして、『なぜ』すりかえの妄想に囚われてしまった人に、外からしてあげられることといえば……

 運命の『なぜ』を問いたくなる気持ちを受け止めたうえで、メカニズムはこうなんだよ、ということを説いていくこと。

 「こういうメカニズムなんですよ」「誰もそんな悪意で動いちゃいないんですよ」「災難が『今、ここで』降り掛かったのは、単なる偶然なんですよ」と、言い続けること。

 それ以外にはないんでしょうね……




 で。こういう『なぜ』のすり替えを、意図的に発生させて伏線や盛り上げに利用するジャンルが「ファンタジー」ってわけ!!

 天罰、呪い、「正しい行いには正しい報い」「悪しき行いには悪しき報い」。

 それってファンタジーの醍醐味だからね。


 逆に『なぜ』のすりかえを行わず、徹底的に原理の『なぜ』にもとづいて書くジャンルがSF、ってことになるでしょうか。

 ロボット、コンピューター、宇宙、なんてものは飾りつけに過ぎないんですよね。だからたぶん俺はSFを書いたことがない、と自分では思ってます。

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