6/11 歩け、歩け



 小説のネタが浮かびません。

 そこで、ウォーキングに行くことにしました。


 歩くことは本当に良いらしいですね。脳を活性化させるとかなんとか。

 ゲーテはハイデルベルクの小道を歩いて詩想をねり、京都学派の哲人西田幾太郎は銀閣寺参道から永観堂までを毎朝歩いて思索にふけり、ナポレオン・ボナパルトはセーヌ川沿いを歩いて皇帝になった。

 歩きましょう。歩けばきっと、なんかいいネタが浮かぶでしょう。


 というわけで出発です。僕の自宅から片道20分ほどの場所に大きな川がありまして、そこまで往復すれば40分間のちょうど手ごろなウォーキングコースになります。途中で川のせせらぎを聞くのも耳に楽しいですしね。


 暗くなった街を、歩く、歩く。

 んー、いい感じです。足の裏から創作の力が全身に昇ってくるような気がします。きっと、カクヨムで大バズするような、すばらしいネタが浮かぶに違いありません。


 それにしても、夜の街というのはいいですね。

 ほとんど人のいない通り。ときおり静かに通り過ぎていく車のエンジン音。少しずつ汗のにじみはじめた肌に、夜の涼気がなおさら心地よいです。

 すばらしい。ぐんぐん創作意欲が湧いてきます。ひょっとしたら直木三十五賞にノミネートされるほどのものすごいネタが浮かんでしまうかもしれません。


 途中で、霧のような小雨が振り始めました。

 傘の用意はありませんが、なに、大したことはありません。むしろ冷たくて気持ちがいいくらいです。そのまま歩いていくことにします。

 ああ。街灯の黄色がかった光の中に、霧雨が舞うように注いでいます。美しい……心が洗われていくようだ。モンドセレクション金賞まちがいなしのとんでもないネタが今にも浮かびそうです。


 歩いていると、無性にお腹が空いてきました。

 そういえば、まだ晩ご飯を食べていませんでした。帰ったらさっそく食べるとしましょう。身体を動かしたあとのご飯は美味しいですからね。身体にもいいし、気持ちもすっきりする。実に有意義。ウォーキング最高!!!!


 小説のネタは浮かびませんでした。

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