第9話 ダンジョン市役所

 私たちはダンジョン市役所に到着した。

 そこはダンジョン探索者が通う特別な場所。大勢の人々が出入りしている。


 市役所というより神殿に近いかも。

 看板にはデカデカと『イティハーサ』と表示されていた。

 どうやら正式名称はダンジョン市役所イティハーサというらしい。


 中世ヨーロッパの城と寺院を足したような感じかな。

 なんかよくわかんないけど、お香の匂いが独特かもね。お寺っぽいよ。


「あーー。馬はあっちねーー」


 と、背の低い警備員に案内される。

 どうやらドワーフみたい。


 あっちに馬を止める所があるみたいだな。


 バゴーザー白馬モードは厩舎に入った。

 そこは馬車や馬を置いておく、車でいえば駐車場みたいな所。


「中には入れないみたい。ちょっとここで待っててね」


『ウマ!』


 入り口の発券機から発行されるカードには2時間まで無料と書かれていた。


「ウロちゃん。2時間まではゆっくりできるよ」


「はい。では、存分に楽しみませんと」


「ははは。だね」


 えーーと。

 まずは探索者の登録をした方が色々手続きは楽そうだな。


 はぁーー。

 なんか部署が山のようにあるなぁ……。


「魔力相談課……。ダンジョン住宅安全課。ダンジョン税金課」


ひとえさん! 占い課もありますよ!!」


 あはは。

 本当に普通の市役所と違うんだな。

 人族とは違う異世界人も多いしね。


 ウロちゃんは全身を赤らめてソワソワしていた。


「う、占ってもらいませんか? ふ、二人の運命を……」


 なんでそんなにテンションが上がっているのだろう?


「好きなの?」


「だって……。こ、恋占いとかやってくれるかもしれませんよ!」


「ははは……。時間があったらやろっか」


「は、はい……」


 やれやれ。

 女の子は占いが好きっていうんもんね。

 私は全く興味ないけどさ。恋占いねぇ。

 

「ウロちゃんって好きな人いるの?」


「ええ!?」


 そう言ったままフリーズ。

 しばらくすると、


プシュゥウウウウ……。


「うわぁああ!! ウロちゃんから湯気がぁああ!! なんか変なこと聞いた! ごめん!!」


 地雷だったか。

 まぁ、好きな男の子くらいいてもおかしくないよね。

 そのうち教えて貰えばいいや。


「しかし、こう部署が多いと迷っちゃうよね」


「本当です。通常なら探索者登録なら1階にありそうですが……」


 私たちがキョロキョロしていると、男の人が声をかけてきた。


「迷ったのですか?」


 スーツ姿のオールバック。

 清潔感があり、誠実な雰囲気だ。


「ああ。それなら本館の1階ですよ。ここは別館だから」


 なんと!

 いつの間にか別館に来ていたのか。

 優しい人に出会えいて良かったな。


「もしかして君たち学生?」


「そうなんです。なのでこんな所初めてで」


「魔晶石を売りに来たとか?」


 え? すご。


「なんでわかったんですか?」


「そういう子とは稀に遭遇するんだ。学生でも様々な経緯で魔晶石を手に入れてね。ここに売りに来るんだよ」


「へぇ……」


「良かったら僕に売ってくれないかい?」


「ええ? お兄さんは何者なんですか?」


「僕はこういう者さ」


 そう言って名刺をくれた。


「魔晶石買取専門……魔石商シグマ」


 おお、そんな専門職の人なのか。

 じゃあ、この魔晶石を買い取ってもらえるんだな。


「これを売ろうとしてました」


「え!? こ、この魔晶石をどこで?」


「え? 初級ダンジョンですけど?」


「しょ、初級ダンジョンにあったのかい? 激レアだね」


 そうなのか?

 まぁ、ボスモンスターが落としたやつだからな。


「……通常なら」


 そう言って、しばらく考え込む。


「2万円だな」


「え! 高ッ!!」


「激レアだからね」


 ダンジョン攻略は1時間もかかってないからね。

 それで2万円なんて相当儲かっているよ!


「だけどさ。お嬢ちゃんたちとは初めて出会ったからね。初回買取サービスは3万円にするよ。どうかな?」


「さ、3万円!?」

「うは! すごいですひとえさん! これはラッキーでしたね!」


 うーーん。

 

「売るべきですよ! こんな機会、めったとありませんわ!」


「あーー。やめておきます」


「ええええええ!? どうしてですか!?」


 ちょっと気になるんだよねぇ……。

 損をしてでも魔晶石の適正価格を把握しといた方が良さそうだな。


「残念だよ。また機会があったらお願いするね。それじゃあ」


 そう言って、男は去って言った。


「あああ。せっかくの機会でしたのに……」


「まぁまぁ。本館に行こうよ」


 本館に行くと、魔晶石を売るショップがあった。

 

 かなり気になるから登録前に売りに行こうか。


 鑑定士は驚く。


「え!? 君。この魔晶石をどうやって手に入れたんだい?」


「いや。まぁ初級ダンジョンで広いました」


「そんなわけないじゃないか! 初級ダンジョンといえばEかF級だよ。そんなダンジョンに存在する代物じゃないんだ」


「そう言われましても……」


「未成年の場合。売買には親の承諾がいるんだよ? あるの?」


「ああ。それなら母の推薦状があります」


「え!? 君、一香さんの娘さんなの?」


「母さんを知っているんですか?」


「そりゃあね。有名な探索者だから。……そういえば顔は似てるね」


 そう言って胸に目を落とした。


 おい!


「早く買い取ってくださいよ」


「ああ、ごめん。じゃあこれだけ」


 と札束を3つ出してきた。


 はい?


 買取りの内訳に目を見張る。

 ゼロの数が多すぎる。


「さ、300万円!?」


「当然だよ。こんな上等な魔晶石。そうそうに出回らないからね」


 ふほぉおお!!

 いきなり大金持ちになってしまった。


「あれウロちゃん? どうした?」


プルプルプルプル……。


「わ、わたくし。とんでもない決断をしておりましたわぁあああ!!」


「な、なにが?」


「さっきの男です!!」


「ああ。3万円で買うって言ってた人ね」


「さっきの魔石商の男は詐欺だったのです!!」


「ははは。まぁ……詐欺だと言っちゃのは極端だけどね。騙そうとしたのは事実だよね」


「あんなのは卑劣です! 何も知らないわたくしたちを騙そうとしました!」


「確かに酷い人だね」


ひとえさんだからこそ見抜けた悪業です。この偉業は表彰ものでしょう」


「ははは。んな大袈裟な」


「でも、どうして詐欺だと見抜けたのですか?」


「私たちが初めてここに来たことを知って、随分と親切だったからね。値段を提示する時の長い間も変だったし。きっと2万円を提示した時に私たちの反応を見たんだと思う。ごねたら値段を釣り上げるつもりだったんだよ」


 多分、情報に疎い新人を騙して金を稼いでるんだろうな。

 まさか、あんなのがイティハーサにいるなんて、ちょっと気をつけないとね。


「ふはぁああ! 流石です!! すごすぎます!! うう!! わたくしはそんなことにも気が付かずに! 浮かれてはしゃいで情けない!!」


「あはは。まぁまぁ、騙されなかったんだから良しとしようよ」


「ああ、本当に申し訳ありません。もう死んで詫びるしかありません!!」


「んな、大袈裟な! 本当に落ち着いてーー!!」


 

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