第12話
私の前を歩く二人を見る。
この子たちは、一年前からマシロちゃんと仲の良い関係を築き上げてきた、きっと私とは違って本当の意味でマシロちゃんと親しい仲なんだと思う。
快楽に依存させる、私とマシロちゃんの歪んだ関係なんかじゃない。
もっと潔白で、時間がものを言う関係なんだ。
たしか、『あーちゃん』と『めーちゃん』って呼ばれてるんだっけ?マシロちゃんに。
もう既にその呼び名からして、私が何歩も遅れていることが分かった。
そう、分かっていたのだ。
最初から、彼女たち親友ポジションにいる二人からマシロちゃんを奪い、尚且つ迅速に私の虜にするためには、元から正攻法でマシロちゃんを堕とせるなんて思ってない。
けれど、
「(………あぁ、二人が羨ましいなぁ)」
やっぱり、この二人のことを考え出すと私は無性に自分のことを虚しく感じてしまう。
私も、変われたと思ってたんだけどな。
マシロちゃんみたいに、変わりたいんだけどな。
「(やっぱり、見た目だけじゃ内面までは変わりきれない、、よね)」
私はまた、勝手に一人で納得してしまう自分に嫌気が差しながらも、『あーちゃん』と『めーちゃん』について行った。
放課後に連れてこられたのは、何の因果か、旧校舎の音楽室だった。
そう、ここは私が初めにマシロちゃんとファーストキスを捧げ、奪った思い出の場所である。
というか、マシロちゃんとの情事はここでしかやってない。
「んじゃまぁ、一応お礼だけ。今日は時間取らせちゃってごめんね?着いてきてくれてありがとう」
「いや、ううん。私も一度あなた達としっかり腹を割って話をしなきゃと思ってたから」
「あ、そう?」
「じゃあ早速、聞かせてもらう」
「ちょいちょい。待ちなさい待ちなさい。あーたはただでさえ無愛想で声も低めなんだから、そう急かしたら可哀想でしょーが」
「………可哀想なんて、本気で思ってる??」
「………まぁ、それは今後の話によって変わってくる、かも」
二人が、黙って私のことを見る。
恐らく、「事情を話せ」って無言で促してるんだと思う。
私はコホン、と咳払いを一つ。
マシロちゃんを好きなったことから、その経緯まで、そして企みも。全てを打ち明けた。
あと、
「最初はただ、計画はしてたんだけど実行には移せなくて。そしたら、私の隣でマシロちゃんとあなた達が学校の生徒掲示板で『誰か女の子でマシロを寝とってくれる方、募集中♡』って書き込む話をしてたから―――
「その話を聞いた時は、マシロちゃんにそんな一歩間違えたら危険なことをさせるな!ってあなた達に怒りが湧いたんだけど―――
「気づいたの。あれ、でもこれって私にとっては良いチャンスなんじゃないの?って――
「だから、私はその書き込みが他の誰かの目に留まる前に『通報』して書き込みを消してもらって、私がマシロちゃんをNTRってしまおうと思ったの」
そう、最終的には、それがきっかけで、私は実行に移そうと思ってしまった訳だ。
「ごめんなさい」
私は謝った。
頭を下げた。
私がやってることは、実質『あーちゃん』と『めーちゃん』から大事な友人を奪ってしまうのと同義で。
それが目的だったけど、申し訳ないと思う気持ちは確かにあったのだ。
二人は、ただただ、黙って頭を下げる私を見つめていた、のだと思う。
しばらくして、『めーちゃん』の方。
女子にしては低めの声が降ってきた。
それはその低さとは正反対の、優しい声音。
「マシロは、あんたと一緒にいることで幸せになれる?」
私は顔を上げずに答えた。
まるでご両親に結婚の挨拶にでもしてるかの様な場面だけれど。
こう、答えずにはいられないから。
「絶対に、マシロちゃんは幸せになれる。そう、なれるように私が努力する。あなた達との時間にも負けないぐらいに、私と一緒の時にも幸せだって、感じてもらえるように」
この言葉には、きっと私自身にも知り得ない、色んな
今度は、『あーちゃん』が、間延びしたおちゃらけた口調で言った。
「私たちとの時間と同じくらいじゃあ、ダメだなぁ。そこは、私たちとの時間よりもって、ちゃんと言ってくれないとぉ〜。……………でも、そっか。ちゃんと好きだったんだね、マシロちゃまのこと」
「うん。うん!本当に、マシロちゃんのことが大好きなんです。」
マシロちゃんは、『 』から。
「絶対に、あなた達との時間よりも、私といる時間の方が幸せだって思ってもらえるように、頑張る」
「………うん。しっかりと静玖ちゃまの気持ちは聞き届けました!!じゃあ、まだ間に合うんじゃない?」
「………マシロのこと、頼んだ静玖。今日、約束してたんでしょ??」
「っ!!!」
この二人から、名前で読んでもらえた。
マシロちゃんと、同じように、接してくれた。
私は頷く。
そうだ。きっとマシロちゃんは怒っているかもしれない。
けど、まだ、間に合うはずだ。
時間は結構経ってしまっているけれど。何となく、まだ何とかなる予感がするのだ。
私はスマホのチャットアプリを開く。
〈ねぇ、何処に行ったの?〉
〈約束したよね?〉
〈逃げたの?どうして逃げるの?〉
〈わたし、何がなんでも教室で待ち続けるからね???〉
そんな、もうすっかり重たい女のチャットに、思わずフッと笑みがこぼれる。
こんな風でも、やっぱりマシロちゃんを愛おしく感じてしまう。
こうならないために、これから、私はめいっぱいにマシロちゃんを愛して愛して愛し尽くそう。
溢れ出る無償の愛を、焦がれ続けたこの''恋''を、マシロちゃんだけに捧げて、注ぎ込むのだ。
私は『あーちゃん』と『めーちゃん』への「さよなら」もおざなりに。
この音楽室を出て、駆けた。
きっと、今もマシロちゃんは待ってるはずだから。
◇ ◇ ◇
私たちは、先ほどこの旧校舎音楽室から静玖が去っていった、その出口を見つめていた。
「………行ったね。
「そうだねぇ。
マシロが、そして静玖が。
―――これから幸せになれますように。
━━━━━━━━━━━━━━━
とうとう、あと一話で完結です。
次回は5/13土曜日に更新します。
あーちゃんとめーちゃんの名前は、寄り添う花々のように。
どうか、最後まで応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます