第10話

 私はマシロちゃんを放課後の完全下校時刻ギリギリまで愛した後に、腰が砕けてヘロヘロの彼女に肩を貸して学校を出た。


 もうすっかり空は暗くなって、春だけれども、まだまだ日は短い。


「家まで送ってくよ、マシロちゃん」

「だ、だいじょーぶ、でしゅから」


 なんで敬語?

 かれこれ2時間弱、ずっとマシロちゃんは私に胸やらお腹やら、唇も。色々な場所を愛撫され続けて、もうすっかりヘロヘロのくたくたになってしまっていて。

 きっと今も半無意識状態なんだろうな。って私は勝手に予測する。


 きっと、明日になればマシロちゃんは今日のことを必死に思い出そうとして。それでも頭が蕩けた状態のことだから思い出せなくて。

 でも、

 何故か私のことが気になってしまう。


 そんな風になってくれれば、調教の下済みも順調と言える。



 私は結局、心配だからマシロちゃんを家まで送ってあげた。

 舌っ足らずではあったけれどマシロちゃんのナビゲートによって問題なく送り帰すことが出来た。


 あぁ、明日学校で会った時、マシロちゃんはどんな表情を私に見せてくれるんだろう。

 今夜はどうやら、楽しみで眠れそうもない。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 私はいつも通りの、遅すぎもせず早すぎもしない時間に登校し教室の自分の席に座った。


 いつもならば、マシロちゃんはもうこの時間には教室にいて、お友達二人と仲良く談笑している。


 けれど、今日は違った。

 教室を見渡し、探しても彼女の姿は見当たらない。

 早速、私は自身の顔がニヤケそうになるのを自覚する。と同時に、少しばかり残念な気持ちにもなる。


 今朝目を覚まして、思考が完全にクリアな状態に戻った彼女は、いったい昨日の情事を思い出して、何を思い、何を感じただろうか。

 きっと詳しくナニをしたのかまでは思い出せず、ただ感情が膨れ上がって、ムラムラまでしてくれてたら万々歳だ。


 今まで、マシロちゃんが私よりも遅くに登校することなんて無かった。

 つまり、今朝は何かしら彼女に変化があったことになる。


 確かに、私は今朝教室に自分が入ったら、マシロちゃんが既にいて私をチラチラと気にしてくれることを想定していた。


 けれど、彼女が未だ来ていないということは、それはそれで妄想も捗る。


 彼女はいったい、ナニをして遅くなっているんだろうか、とか。



 しばらく待って、結局マシロちゃんが登校してきたのは遅刻ギリギリ、チャイムが鳴る寸前だった。

 いつもなら寝癖なんて絶対になおして来てただろうに、今日は可愛らしく寝癖がぴょこんっと撥ねている。


 彼女は走っきたのか、それとも羞恥からなのか、顔を火照らせ、そのまま私の隣の席に腰を下ろした。


 私は私で、自分からは挨拶をしない。決して自分から目を合わせようともしない。


 だけど、それでいて神経は隣に研ぎ澄ませておく。

 彼女の細かな可愛い行動に、いち早く気がついてあげるために。


 案の定、マシロちゃんはお友達二人への挨拶も程々に済ませて、朝のホームルームの時間中もずっと、私ばかりをチラチラと見てはソワソワしていた。


 あぁ♡なんて可愛いんだろう。


 胸がキュンキュンする。

 横目でモジモジしているマシロちゃんを見れば、私に話しかけようとしては声を出す前に口をパクパクさせて、顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。


 きっと、昨日のことを考えて、頭の中は気持ちぃことと私でいっぱいいっぱいなんだろうなぁ。


 キュンキュンとときめく私の鼓動を落ち着かせ、しばらく黒板をぼーっと眺めるふりをしてマシロちゃんの反応を窺っていると、とうとうマシロちゃんが動いた。


「お、おおお、おはよう!!」


 思ってた数倍は大きい挨拶でびっくりしてしまう。

 でも、驚いたのも一瞬で、私はすぐに目がハートになるぐらいにはキュンとした。


 マシロちゃん、今までは私の目を見て、恥ずかしさなんてこれっぽっちも感じずに挨拶してくれていたのに。

 今では首筋や耳まで真っ赤っかにしながら、目もオドオドと泳いでしまっている。

 挨拶も吃っているし。


 私に挨拶をするだけで、緊張しちゃったのかな?

 可愛いね。


 それでいて、吃ってしまったことに自分自身で大きく後悔して、終いには目の端に涙なんかも溜めて、あられもない表情になっている。


 私に幻滅されちゃう、とか思っちゃったのかな。そうだといいな。


 そうだったら、




 とってもとっても私たちの関係は魅力的だ。




 順調に、着々と調教は、そして彼女の私に対する依存は、始まっている。

 それでも敢えて、私は無表情を取り繕って応える。


「……………? おはよう?」


 私に何か用かしら?どうして私に挨拶をしてきたの?みたいな。

 そんなまるで赤の他人みたいな感じを装う。


「っ!??」


 露骨にマシロちゃんの顔が歪んだ。

 それでも、まだいけるよね?

 私は追い討ちをかける。


「私に、何か用?」


 今までも、彼女から挨拶をしてくることは数多あったけれど、私から挨拶をしたことは無かった。

 それでも、私がこんな風に素っ気ない態度を取ったことも無かった。


 だけど、周りのクラスメートたちは、もう既に私たちのことを気にしてる様子は無かった。

 それこそ私が髪を切ったばかりの頃は、何故か何かと私のこと話していたけれど。

 今ではすっかり、そのほとぼりも冷めている。


 チラリとマシロちゃんのお友達二人を見れば、二人は二人で、なんだか怪しい関係性に見えた。


 どこか百合百合神々しい。


 私も、もうすぐマシロちゃんとあんな関係になれる、はず。


 私の突き放すような態度に、マシロちゃんはあからさまに動揺した。


「ぅぇ?」

「何も用が無いなら、私はお手洗いに行くんだけど。もういいかな?」

「ぇ、ぁう、そ、んな。えと、ま、待っ」

「何も無さそうだね。それじゃ」

「…………ぁ」


 マシロちゃんはいよいよ、泣きそうな顔で私に手を伸ばした。

 途端、今すぐにでもその手を取って、キスしたくなる衝動を必死に抑える。


 私は下唇を噛みながら、彼女の手をひらりと避けて教室を後にした。


 まだ、まだまだ。

 もっと、もっと私に執着させたい。

 そのために。ごめんね、マシロちゃん。


 もう少しだけ、何も訳が分からないままに私を想い続けてね。



━━━━━━━━━━━━━━━


あと少しで完結。


本作品が完結したら、本格的に以下の作品を完結目指して頑張るので、宜しければ今のうちから応援よろしくお願いします。


↓↓↓↓↓↓

『私が世界で2番目に可愛い』

https://kakuyomu.jp/works/16817330656710856280

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