第7話
「放課後、私との思い出が欲しくなったなら、また、あの場所に来て」
「そろそろ、二回目が欲しくなったでしょ?」
これってつまり、あのキスのこと、だよね???
チラリと右隣の席を見やる。
今わたしの頭の中の八割を埋めつくしてる
お昼休みが終わって、今は六限目の授業中だ。
五限目の授業は選択科目の物理だったけれど、わたしは頭の中の井上 静玖ちゃんのことでいっぱいいっぱいで、先生に指名されたのにも気がつかずにクラスメイトたちの前で大失態をしてしまった。
しかも、井上 静玖ちゃんも同じ物理選択で、寄りにもよってその時に助けてくれたのは彼女だった。
授業内容を聞かずにいたせいでアタフタとしているわたしを見ながらクスリと微笑んでサポートしてくれた。
でも、その時にわたしが感じたのは嬉しさよりも、どちらかと言えば、、、
なんだろ、どこかモヤッとするような。
わたしは井上 静玖ちゃんのことでこんなに考えて考えて頭がいっぱいになってるのに、どうして当の本人はこんなにも整然としていられるのか、と。
たぶん、そんな感じの、きっとわたし自身も知らなかった醜い感情だと思う。
あぁ、そう考えると、自分が嫌になってしまう。
まるでこれじゃあ、好きな人に構って貰えなくて寂しがる女の子みたいじゃん。
わたしには、タッくんっていうカッコイイ彼氏がいるはずなのに。
そういえば、最近はなんだか、家に帰っても初カレのタッくんとチャットし合うよりも、井上 静玖ちゃんとチャットする方が頻度が多い気もする。
前までは、タッくんからの返信が遅いことにヤキモキしてたはずなのに、どうしてか、
だって、井上 静玖ちゃんったら、返信が来た時にすぐにこっちも返さないと一向に返信が返ってこないんだもん。
でも少し、やっぱり最近タッくんのことを蔑ろにしている気がしなくもない。
よし、今日の放課後、井上 静玖ちゃんと話すのを最後に、一回彼女とは距離を置こう。
タッくんから、返信を中々しないことで文句のチャットが沢山きてるし。
でも、少しこっちが返信しなかったぐらいで、最近わたしに冷たくなってたタッくんがここまで執拗く連絡してくるなんて…………
はぁ、こんなの、とーーーーっても!!!
―――めんどくさいなぁ
なぁんて、少し思っちゃうけど。
あれ?おかしいな。わたしって、今までタッくんに面倒臭いなんて思ったこと一度も無かったはずなのに………
まぁでも、今日限りで井上 静玖ちゃんとは少しだけ距離を置いて、今までみたいにタッくんのことだけを考えれば、そんなことも思わなくなるよね!
この時のわたしは、呑気にそんなことを考えていた。
六限目の授業中、考え事をするわたしを横目で盗み見てニヤリと笑っていた井上 静玖ちゃんには気づきもせずに………
放課後になった。
井上 静玖ちゃんの言ってたあの場所って、きっと旧校舎の音楽室のことで、あってるよね??
わたしは掃除当番の仕事を終わらせたあとに、目的地の扉の前まで来て、そこで一旦止まった。
お昼休みの時、井上 静玖ちゃんは「二回目」がどうとか言ってた。
きっと、キスのこと、だと思う。
確かに、あの感触は今でも覚えてる。
リップを塗っていたのか、わたしの唇に触れた彼女の唇はぷるんっと弾力があってツヤツヤしていた。
あれを、今日、この音楽室に入れば、もう一回、できるの???
きっともうこの部屋の中では井上 静玖ちゃんが待ってるはずだ。
中に入って、わたしは、、彼女と?
いや、でもあれ??てことは、わたしがここに入ったらそれはもう、彼女に「お願いします♡あの時のキスが忘れられないんです♡もう一回わたしにキスしてぇ♡」って言ってるのと同じじゃない!??
………やっぱり、中に入るのは止めて家に帰るべきだろうか。
話したいことは、どうせトークアプリでも済ませられることだし。
うん、そうしよう。
彼女とのあの今までに感じたこと無い甘美な時間は忘れよう。
帰ろう!!!
そう思った、はずなのに。
ガララ
わたしは音楽室の扉を開けてしまっていた。
中では机の上に座った井上 静玖ちゃんがこちらを見て嬉しそうに太陽のような笑顔で、
「よ、よかったぁ〜。ありがとう、来てくれて!待ってたよ、マシロちゃん!!」
そう言ってタタタっと駆けてきて、いきなりハグをしてきた。
ま、まだタッくんにすら許してないことを、いきなり井上 静玖ちゃんにまたもや『初めて』を奪われてしまった。
ドキ
あれ?でも、あの日キスした時も、わたしは彼女に抱きしめられてたような??
いや、それはノーカンにしよう。
ドキドキ
と言うか、あのキスだって本当は女の子同士なんだからノーカンだったはずだ。
ドキドキッ
意識するなわたし。
ドキドキッ!
意識するなってわたし。
ドキドキドキドキドキッ!!!
あー、もう!!
わたしは仕方なく、そう、仕方なく彼女の背に手を回した。
これでもう、完璧なハグだ。一方的なものでは、決してない。
「い、言っておくけど。お、女の子同士のハグもノーカン、だよ??」
井上 静玖ちゃんはわたしの首筋に顔を
「スンスン」
ちょっと!?今日、あ、汗とかもかいちゃったんだから、絶対に臭いから!か、嗅がないで!?臭いって思われたくないから!!
「大丈夫。わかってる。このハグはノーカンノーカン♪マシロちゃんの手がしっかりと私を抱きしてめて『離さない!』って言ってるけど、ノーカンノーカン♪♪」
「っ!?こ、これは違くて!その―――」
「でも、今日帰る頃には、きっとマシロちゃんは私のことしか考えられなくなる♡」
「え?」
「もう我慢できない。しなくてもいい。さっそくはじめるよ♪♡」
「んむっ!?!?」
井上 静玖ちゃんは意味の分からないことを言ったあと、いきなりわたしの唇に強引に唇をくっつけて、急でびっくりして閉ざした唇を舌で無理矢理こじ開けてきて、わたしはあっさりと、ものの数秒で口内を彼女の唾液で凌辱されてしまった。
あ、甘い。
なにも、考えられない。
あぁ、こんな、すぐに、うそ………
もう、なにも、考えたくにゃい。
「んむ?………ふふふ、マシロちゃん、もう蕩けきった顔しちゃってる。もしかして、あの日から何度も妄想しちゃって期待してたの?あぁ、かわいいね♡マシロちゃん♡♡こんなに早く――――」
井上 静玖ちゃんが何かを言ってる気がするけれど、今の、変なスイッチが入ってしまったわたしの耳には、入ってこなかった。
「さぁ、宴を始めよう♡マシロちゃん♪♪」
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