10月第6週/11月第1週 大地を穿つ

『アルボワ プールサール

 2020

 フリュイティエール ヴィニコル ダルボワ』


 フランス東部ジュラ山脈の裾野にある自然豊かな街アルボワ、そのジュラワインの中心地に100年以上前に設立されたワイン生産者協同組合である。

 「ブドウ畑からグラスまで」という考え方の下、創業から一貫して、持続可能な農法のあらゆる研究と実践を続けてきたという。


 ジュラワインといえば黄色ワインと呼ばれる「ヴァン・ジョーヌ」が有名であるが、今回は赤ワイン用品種の地ブドウ・プールサールを試してみようと思う。


 ほほう?

 こいつはグラスに注いでみると、裏が透けて見える程薄い色調だ。

 味わいも水のように薄いと思いきや、ベリー系の盛り合わせのようなフルーティーな香りがしっかりと出ている。

 酸味が少々感じる口当たりだが、軽やかでやさしさのあるエレガントなワインである。


『チキンの黒ビール煮』


 今回も薪ストーブのダッチオーブンが大活躍だ。

 アウトドア用品のキャプテンスタッグが公開しているレシピを元に作ってみよう。


 いきなりレシピとは違うが、粗みじん切りにしたニンニクとタマネギを家にあるガスコンロで飴色になるぐらいまで炒める。

 一旦ニンニクとタマネギを皿に取り出し、塩コショウで味付けした鶏のドラムスティックを焼き色が付く程度に軽く焼く。


 この後、一口サイズに切ったマッシュルームと皿に取り出したニンニクとタマネギを再投入する。

 それから黒ビールが全体に浸かるほど注ぐだけだ。

 余った黒ビールは喉越し良く胃袋に収める。


 後はただじっくりと弱火にした薪ストーブの上に置いておくだけで良い。

 レシピでは1時間程度でビールが効いて柔らかくなるようだが、今回はこの間加工作業をしていたので2時間は放置していたと思う。


 さて、蓋を開けてみると黒ビールの独特の香りが食欲を誘う。

 だが、ここで我慢し最後の味の調整の塩コショウを振りかけ、パセリで色付けをすれば完成だ。 


 軽く箸を通してみるとホロホロと肉が骨から崩れ落ちていく。

 黒ビールの中に鶏の出汁が溶け込み、旨味の洪水が止まらない。


 そして、ワインと合わせてみよう。


 単体では軽やかながらもエレガントな赤ワインであったが、この野生料理とも上手く相性が合う。

 野趣あふれる苦味、酸いも甘いも経験した大人の味わいのようだ。


 しかし、これは失敗したと思う。


 一人用の小型ダッチオーブンのせいか、一瞬で無くなってしまったからだ!


 あまりにも物足りない。

 まだまだ食べたい欲求が止まらないのだ。


 ここで、家のガスコンロでサッとパスタを茹で、ペペロンチーノを急遽作る。

 ダッチオーブンに残った鶏の旨味あふれる黒ビールソースを絡める。

 

 この締めの一品がたまらなく贅沢だ。


 食欲の秋、これを楽しめるのも昼間に良い汗をかいているからだろうと思う。

 良く働きよく食べる。

 これが生きる喜びだと思えるということは、きっと人生を楽しめているのだろう。


☆☆☆


 前回に引き続き、毎日せっせと山のようにある杉の細い枝を家に運ぶ。

 夕方からは薪ストーブの前でブドウ棚資材の加工をしながら、ダッチオーブンでポトフを作る。

 秋の夜長は実に穏やかに過ごしていた。


 徐々に短くなってきた昼間の時間は畑へと繰り出す。 

 ブドウ棚資材の運搬も終われば、設置工事の始まりだ。


 工事範囲はすでにビニール紐で割り出してはあるが、これはまだ仮の状態、全体を調整するために50cm程斜面上部に移動させた位置で確定させる。

 そこを全体の基準になる一列目とするのだ。


 その一点は、その列を支える最も太い支柱と列全体の支柱をつなぐ重要なポイントとなる。

 そこに海に落とす錨のように、大地とブドウ棚を繋ぐ役目を持つアンカーを打ち込んでいくのだ。


 このやり方は実に単純明快だが、まさに筋肉至上主義でもある。

 数十キロはある鋼鉄の棒で大地を穿つように叩き込んでいくだけだ。


 金属製のアンカーであるが、先端は矢のように尖っているので大地であろうが突き刺すことは可能だ。

 そのアンカーの矢じりのような先端に鋼鉄の棒、打ち込み棒の受け部分をハメ込む。


 打ち込み棒は二本で一組、西洋の騎士の持つランスのような形状をしており、先程の受け部分は鞘のようなものだ。

 それから打ち込み棒のもう1本はランスの本体のようで、手で持つ部分の柄のように短くて太い部分、鍔のような出っ張り、細くて長い突き刺す部分に分かれている。

 

 一発目。

 

 あぎゃぁあ!

 ま、間違えた。


 以前やったことはあったのだが、昔の記憶でうろ覚えだったので道具の使い方を間違えていた。

 このやり方ではアンカーが機能しないので、スコップで大きく穴を掘って救出、踏み固めながら穴を戻した。


 で、気を取り直してスマホで説明書の画像をじっくりと見直した。

 それからのやり方で説明していこう。


 まず始めは、短くて太い部分を受け部分の穴に、ゆっくりとズレないように挿入する。

 挿したらできるだけ垂直になるように突く。

 スローで優しく、ある程度入ったところで相手が動かなくなれば、激しくピストンを繰り返す。

 この時に手だけではなく、足腰もしっかりと使うとより入りやすくなる。


 基準線が打ち込み棒の受け部分にあるのでそこまで入ったことを確認する。

 その部分まで入ったら、ランスの長い突き刺す部分を受けの穴に挿入する。


 この時のアンカーは、地面から二本の金具が出ている状態だが、その長さは同一ではない。

 細い方で打ち込むことで、先端の矢じりのような部分が地中で開いていき、しっかりと大地に食い込んで抜けにくくなるのだ。

 この二本の金具の長さが同一になれば、しっかりと開いた状態というわけだ。


 それでは、細い方に切り替え再び激しくピストンをする。

 突いて突いて突きまくる。

 そして、金具を地面により深く挿し、中で開いてイッたら一発目が終わりとなる。


 この激しいピストン運動で足腰がガタガタになるわけで、抜く方もわりと筋トレである。

 今度は重力に逆らいながら打ち上げていく。

 これもまたダンベルを持ちながらのスクワットのようだ。

 で、これが全部で19列、上下合わせれば38回戦やるわけだ。


 この週は幸か不幸か、他の用事がある日があり、午前中だけの畑作業の日が多かった。

 だが、どうにかこの週で終わることができた。


 激しいピストン運動で足腰はガクガクだが、このたまらない達成感に賢者タイムなどない。

 真面目に農作業をしていると、金を払ってジム通いなど馬鹿馬鹿しくなるほどだ。

 しかし、これはまだほんの下準備にすぎない。


 これからブドウ棚本体である支柱を立てていくが、その話は来週にしよう。

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