10月第2週 たまには休むことも大事なのだ

『テルース ラツィオ ロッソ

 2020

 ファレスコ』


 兄は世界中で醸造コンサルタントを務め、弟はイタリアの名門ワイナリー・アンティノリのCEO兼醸造責任者、イタリアを代表する醸造家兄弟が手掛けるワイナリーである。

 イタリア、ウンブリア州とラツィオ州に畑を持ち、現在、ラツィオ州の畑のポテンシャルを最も表現できるブドウ品種として力を注いでいるのがシラーらしい。

 ちなみに「テルース」、大地という名を意味し、テロワールを表現するべく造られたそうだ。


 と、いうことで早速試してみよう。


 実に濃厚な色合いである。

 香りは華やか、味わいにはチェリーのような良く熟した甘やかさとシラー独特のスパイシーさを感じる。

 余韻も後味もよく、千円台とは思えない程上手く造られている。

 

 ただ、なぜか翌日には記憶に残らず印象が薄れてしまった。


『芋煮』


 山形県の郷土料理、里芋の収穫期の秋から冬に親しまれている。

 灼熱の夏が嘘のように、最近では朝晩が冷え込むようになってきた。

 こんな時に特に美味しいのだ。


 芋煮は地域や家庭で味が違うのだが、余所者である僕に家庭の味はないのでキッコーマンのレシピを採用しよう。

 

 具材はシンプルに、里芋、牛肉、ネギ、こんにゃく、しめじ、だけだ。

 味付けも、醤油、みりん、砂糖、水で簡単に。


 あとはただ煮込む。

 ただひたすら煮込む。

 たまにアクを取って煮込むだけで完成だ。


 味はシンプルで五臓六腑に沁み渡り、どこかホッとする。

 美味い不味いではなく、ただ当然のように大和魂に馴染む味わいなのだ。

 余所者であるのに、どこか郷愁を感じてしまうのである。

 

 ワインと合わせてみる。


 うむ……微妙?


 不味い訳では無い。

 ただ、どこかしっくりと来ないのだ。


 シラーと牛肉料理は基本的に合う。

 しかし、芋煮のような素朴な味わいにはどこか騒がしい気がする。


 例えるなら、時が止まったような田園風景の村にM字マークのハンバーガーチェーン店があるような違和感だ。

 これはただ個人的な主観なので異論は大いに認めよう。


 今回の組み合わせは、自分の飲みたいものと食べたいものを適当に合わせてみただけだ。

 飲み物も食べ物も人間の都合など知ったことではないのである。

 

☆☆☆


 前回やりたかった仕事、緑肥の刈り込みをやっと行うことができる。

 しかし、天候は最高ではなく、地面は少し湿っている気がする。

 それでもやるしか無かった。

 その理由として再び長雨が続く予報だからだ。


 この週の始め2日程は雨の予報は無いので、その間に地面の水分ができるだけ抜けてもらうことを願いつつ、出稼ぎへ。

 いつもお世話になっている地元ワイナリーでは、様々な品種を育てているのでまだまだ収穫がある。

 

 そうして収穫が一段落してからトラクターを借りてきて当日朝、どんよりとした空模様である。

 どうしようかと考え、翌日からの予報を見ると天候不順のため、今やるしか無いと決行することにした。

 

 準備を整え、開始。


 しかし

 

「神よ、貴様はそんなに僕が嫌いか!」


 すぐに天気予報にない水滴が空から落ち、闇に堕ちそうになりながら天に吠える。

 すると願いが通じたのか、わずかに草を濡らす程度で雨は止んだ。


 この隙にロータリー式の除草機をつけたトラクターを走らせる。

 このまま快適に作業が進んだ、わけではなかった。


 播いていた緑肥は最大で250cmは目算であった。

 まさに巨大な壁となっていたので、トラクターの馬力でもそう簡単になぎ倒していくことは難しい。

 たまにパワー負けしてエンストすることもあった。


 緑肥を播く前にトラクターを走らせた時は圧倒的な硬さだったが、雨で水気を含み、多少は緑肥の効果があったのか土は柔くなっていたので前回よりは作業は捗った。


 段差や大穴は多少改善されたので、どうにか見れる形の畑にはなった。

 どちらにせよ、3週間後にはもう一度走らせる計画があるので今回は大雑把にできていれば良い。


 そうして無事に作業が終わる頃には晴れてきた。

 ホッと一安心かと思いきや、トラクターの除草ロータリーに大量の草や固まった粘土がびっしりとこびりついていた。

 どちらかといえば、コイツラを取る方が大変な作業であった。


 こうして、畑作りは無事に一歩前進することができた。


 厄介なお役所仕事の補助事業であるが、銀行との融資の話も無事にまとまり、ようやく次の工程へと進む準備が整い出してきた。

 機械や資材の契約・納品の打ち合わせも先に進むことができた。


 そうして心に余裕ができたからか、トラクターを走らせた翌日に大雨が降っても焦らずに一休みできた。

 僕の家から車で30分も山道を走れば、日本指折りの名湯温泉地がある。

 春から酷使し続けた身体を湯治でゆっくりと癒す。

 たまには休むことも大事なのだ。


 そうして一休みした翌日、予報が急に変わって天気が回復した。


 さらに次の作業、獣対策としてカモシカネットを張ることにした。


 このカモシカネットは、県全体の獣害対策事業として、最寄りのJAで希望者に無料で配っていた。

 実は、これを8月下旬にすでにもらっていたのだ。

 設置図面や申請書を書いたりという手間はあったが、現物の代金に比べれば圧倒的に安い経費である。


 このカモシカネットは、獣対策としては簡易であるので本格的にブドウの実をつけるようになったらそれほど効果は無いだろう。

 しかしながら、苗木の間はイノシシやカモシカ対策には使えるだろうという目論見だ。

 

 すでに支柱は立て終わったが、今回は長くなってしまったのでその模様は次回にしようと思う。

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