第19話 遊園地デート②
『お忘れ物のないよう———』
係員の指示に従い、搭乗者は皆、足を少しふらつかせながら帰り道の階段を降りる。
「いやー想像以上だったね!一回転のところとかやばかったよね!」
「...はい」
藤沢さんは興奮冷めぬ様子だが、僕は意気消沈していた。
「もう一回行っとく?」
「いや、やめときましょう!」
「ふふっ、じょーだん」
藤沢さんが悪戯っぽく笑う。
「ちょっと休憩しよっか。私飲み物買ってくるね」
そう言って僕をベンチに座らせると、藤沢さんは近くのフードカートでメロンソーダを買って来た。
「はいこれ、私の奢り。チケット貰ったからね」
「いや、僕も健二から貰った身ですよ」
「じゃあ、さっきのに付き合ってくれたお礼...というかお詫び?」
そう言われて、僕は自分の情けなさに苦笑いをしながら、メロンソーダを受け取った。プラスチック容器から伝わってくる冷たさを両手で受け止めながら、ストローで口に流し込む。
「ごめんね、私こういうところ久々だから、ついテンション上がっちゃってさ」
しょんぼりとしている藤沢さんを見て、僕は自分の太ももを軽くつねる。
誘った僕がこんな調子でどうするんだ。
「でも、最初に一番の絶叫系に乗ったおかげで、もう何でも乗れますよ!」
「ふふっ、そっか」
僕の言葉に、藤沢さんの顔が明るくなった。
それから僕たちは、全部のアトラクションを制覇するという目標を掲げ、園内を回った。全力で楽しむ藤沢さんを見ていると、僕も童心に帰ったように楽しめた。
メインゲート近くのショップで、健二と水島さんのお土産を買った後、ようやく空が暗くなり始めた。
「もうこんな時間か。まだ乗ってないの結構あるのになぁ」
スマホで時間を確認した藤沢さんが、残念そうに呟く。
「あと乗れて一つですかね」
「三浦君は何に乗りたい?」
「...観覧車とか」
「ロマンチストだね」
「定番でしょ」
いや、ロマンチストというのもあながち間違いではないのかもしれない。
今の僕は、まるで情緒に溺れているようだった。今朝まで藤沢さんに対して感じていた緊張が解け、代わりに僕の心の中を満たしていくものがある。それは、温かくて、鬱陶しいほどに愛おしい感情だった。それを消化せず、今日を楽しかった思い出として、このまま終えてしまうのは、苦しくて仕方がなかった。
僕たちはゴンドラの中で向かい合って座った。
扉が閉められ、二人だけの空間がゆっくりと上昇する。
「観覧車のこの感じ、懐かしいなー。昔は怖くて窓の外見れなかったんだよね」
「へー、藤沢さんも昔はちゃんと恐怖心があったんですね」
「今もあるけど!?」
その反応に僕が笑うと、藤沢さんもつられて笑った。
「わあ、もうずいぶん高いね」
藤沢さんが窓に体を寄せると、ゴンドラが少し揺れる。外を眺める藤沢さんの瞳や髪が夕陽に照らされ、端麗な横顔をさらに魅力的なものにしていた。
僕はその情景を見つめた後、下を向いて唾を飲み込んだ。
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