第12話 サークル室での会話

サークル室の窓から黄色の葉をつけた銀杏の並木が見える。外はすっかりと涼しくなり、使い物にならないエアコンに不満を覚えることもなくなった。

「三浦っちはさー、幽霊とか、宇宙人とか信じてるかい?」

加賀さんは手の上でくるくるとペンを回しながら、何の裏もないような純粋な目で僕を見る。

「なんですか、『三浦っち』って」

「三浦君だから、三浦っち」

「いや、そういう事でなく」

僕は首の横に右手を当て、苦笑いをする。今日は藤沢さんも健二もいないので、加賀さんの独特な会話の相手は僕がすべて引き受けなければならない。

「ねえ、どうなの」

加賀さんは体をぐいっと前に出して再度聞く。

「うーん、あんまり信じてないです」

「以前までは」と、心の中で付け加えた。今の僕は透明人間と友達になってしまったのだから、オカルト的存在を信じざるを得ない。ただ、変に詮索されて水島さんのことについてボロを出してしまわないように、この場では非オカルトとして話を合わせることにした。

「なんで信じないの?」

「え、なんでって...科学的じゃないから?」

「ふーん」

加賀さんはどこか納得していないような顔をしながら、腕を組む。どういう答えを求めていたのだろうと首をかしげる。そういえば、加賀さんは藤沢宅の秘密を知っているのだろうか。この前藤沢さんに同じような質問をしたときには「加賀ちゃんにも話してないよ」という答えが返ってきたが、それはあくまで話していないというだけだ。加賀さんは藤沢さんといつも一緒にいるのだから、何かしら気づいていてもおかしくはないように思う。

少し興味にかられた僕は探ることにした。

「加賀さんは、そういうオカルト的なの信じてるんですか?」

「信じてないよ」

あっさりとした返答に、少し拍子抜けする。

格好と言動からして、いかにもオカルトを信じてますといった人間だろ!

と、心の中でツッコミを入れた。

「なにかそういう経験したことないんですか?」

「ないってないって。あったら信じてるでしょー」

そう言われ、確かになと笑う。

加賀さんがごまかしているようには見えないので、本当に秘密は知らないのだろう。

「いやね、今度ホラーというか、そっち系の小説書こうと思ってさ。なんかヒントになればなと思ったんだけど」

加賀さんが頬杖をつきながらペン先でノートをトントンと叩く。

「ああ、そういう事だったんですね。すみません、無難な回答しかできなくて」

「いやいや、協力ありがとう、三浦っち」

そう言って加賀さんは、また腕を組んで考え出した。僕も、手が止まっていた風景画の仕上げを再開しようと鉛筆を持つ。そのとき、思い出したかのように加賀さんが口を開いた。

「詩乃ちゃんさ、彼氏いないんだよ」

「そうなんですか、意外ですね」

「うん、めちゃんこ可愛くていい子なのに、なんでだろう」

加賀さんが上を向いて「うーむ」と考え込む。

意外とは言ったが、本心ではまあそうだろうなと納得していた。

僕と一緒に帰ったり、僕を部屋に招き入れたりしているのだから、彼氏がいる方がおかしな話だ。

「彼氏ができないんじゃなくて、つくってないんだよね。詩乃ちゃんの理想が高いのかな。三メートルとか?」

加賀さんが笑っているのを見ながら、おそらく藤沢さんが彼氏をつくらないのは水島さんがいるからだろうと、頭の中で結論を出す。

相手は、水島さんのことを話せるほど信用できる人か。理解してくれる人か。その秘密を知ってしまったら離れてしまうのではないか。付き合うだけならまだしも、将来結婚するとなると一体どうなるのだろう。

きっと、そんな不安があるはずなのだ。

「三浦っちは彼女はいるのかい?」

「いませんよ」

「詩乃ちゃんのことどう?」

「え、いや、どうって...」

不意打ちを食らい、動揺する。顔が赤くなっているのを自分でも感じる。

「あはは、ごめんごめん」

「もー...なんですか、その質問」

赤くなった顔を晴らそうと、手で顔をこする。

「詩乃ちゃん、三浦君のこと気に入ってるみたいだしさ、これからも仲良くしてやってよ」

「それはまあ、もちろん」

加賀さんは誰の目線で言ってるのだろうと思いながら、僕はコクリと頷いた。

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